最大の試練 編
name change
夢小説設定ここでは名前を自由に入力できるぞ。お前の好きな名前を入れてみてくれ。それにより面白みも増すだろ。
と言っても女性ばかりだが……
ん? 最後だけ男か。奴は、アイツが初めて……
いや、すまん。何でもない。では、よろしく頼む。
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「「 春野さん(綾ちゃん)に足りないもの……? 」」
ここは会場の観客席。
親友である桜木と湘北を応援するため駆けつけた
桜木軍団に晴子と友人の藤井、松井そしてカナ。水戸らは当然の様に最前席を確保。
昨日、綾は部活上がりに藤真との出来事を文章にし、友人へと送信していた。
その内容とは‥‥
――――――――――――――――――
To : カナちゃん
件名 : 昨日のこと
部活おわったよ。決勝リーグの前日だからか
みんなすごく気合いが入ってて圧倒されちゃった。
一応、結果報告するね。
プレゼントはちゃんと買えたよ!
無難なものだけど、喜んでもらえるかな。
それからドーソンで一緒におせんべいを食べていっぱいお喋りしたけど
たくさんの贈り物に反対に元気づけられちゃった。
健司くんの瞳…宝石みたいに青くて、とってもキレイなの。優しさとか心の強さって目に表れてるよね。
街行く人に浮気だって疑われて、彼に迷惑をかけて…
安易に二人きりになっちゃダメだって反省してる。
でね、そのとき思ったんだ。
浮ついてるのは私の方なんだって。
P.S.
私に不足してるものがあるって言われたの。
明日の試合で、それを見つけられるかな…?
――――――――――――――――――
昨日、カナが居なくなったことにより思いがけず藤真と二人きりの時間を過ごした綾。
牧へのプレゼントを購入し、立ち寄ったドーソンで煎餅を分け合い、ヘアピンや苺ミルク、頑張ってくれとの激励の言葉など
たくさんの贈り物をもらい励ますつもりが逆に励まされっぱなしでミイラ取りが見事ミイラに。
二股をかけているとまで疑われ、トラブルに見舞われることもあったが機転を利かせた彼により救われていた。
迷惑をかけたなどと思っているのは彼女だけで、藤真にとっては部活前の心温まるひとときだったに違いない。
また、熱い眼差しを向けられていたが、その重要なことには気付けなかった。
結果報告のメールを受け取った彼女は‥‥
( ふむふむ。藤真健司……少しは進展したようね。
じゃなきゃ私が気を利かせた意味がないし!
告白まがいのことはしたんかなー?
これは完全に予想だけど
綾がそれに気が付かなくて……とか?
鈍感だから、まどろっこしい言い方しないで直球勝負じゃないと伝わらないんだって。マジで。
これがホントだったらちょっと可哀想な気もする。
ただ仲良く買い物して終わっただけじゃなさそう……
と思ってたら、浮気ィ? んなわけないっしょ!
綾は牧くん一筋なんだから!
男子をキレイって……はぁ。アンタらしいわ。
大体なんでコンビニ? そして煎餅?
とりあえず、サプライズプレゼントは買えたらしいからこれで目的達成ね!
牧くんならどんなものでも絶対喜んでくれるよ♡
会える日が限られてるなんて私なら考えられないな〜。
綾のお父さんって堅物そうな人だからなぁ。う〜ん……
あのクイズの答えも気になるけど……
とにかく!
綾、めげるな〜! ファイト〜!)
新たに課せられた使命。
この深刻な問題を解決していけるのかと親友は親友なりに責任を感じている様子。非の打ち所がなさそうな綾だが、一体何が欠けているというのか。
急きょ聞かされた晴子や水戸たちは頭を悩ませる。
「綾ちゃんに足りないものって、何かしら……」
「さあ、わかんねーな……」
( 春野さんへの宿題みたいなモンか……
あくまで自分だけの力で答えを導き出せってことか。
というより、また藤真が……
ホントに会いに行ったんだな。
こりゃあ、ただのダチなんかじゃねえな。
そろそろお払い箱決定かな……? )
「それもいいけどよー、綾ちゃんは牧と付き合ってんだから花道も洋平も諦めて
次の女にいきゃあいいのによ。無謀ってもんだぜ。」
「大楠。」
「確かに。人のものをとるのは良くない!」
「洋平も俺らと一緒にナンパしようぜ!」
「おー、そりゃあいい。名案だ。」
本人にさえ分からないものは他人にはもっと分からない。
軍団の中で桜木の次に目立つ髪色の彼は話の腰を折り、さっさと諦めたらいいと気だるげな物言いだ。
新しい女性を探そうと、友人を勧誘すると
「無謀か……確かにそうかもな。
けどよ、好きになっちまったんだからしょうがねえだろ。
第一、俺はナンパなんて興味ねえよ。
あとはいさぎよくフラれるのを待つだけだ。」
「「 洋平…… 」」
もう諦めはついた。
あとはきっぱりと振られる日を待つのみ。
悪を成敗し、男女が無事再会を果たし、そして抱きしめ合う。おとぎ話でも読んでいるのかと錯覚するほどの愛にあふれた美しい光景‥‥
彼女が言っていた通り、王子は身を挺して姫を守った。
開き直った人間にもう怖いものはない。
水戸はただ純粋に湘北と親友、同級生である彼女にエールを送ろうとここまでやって来たのだろう。
――‥
遠回しに私のことを励ましてくれたんだよね、きっと。
すごいよね。心に迷いがないって言うか
一貫性があると言うか……
やっぱり彼が一目置いている人は違うなって……
バスケをこよなく愛してるって感じがしたの。
私も胸を張ってそう言えたら……
思えたらいいのにな……
‥――
晴子は教室での出来事を思い出していた。
「あんな心境で、これから試合なんて……」
「晴子ちゃん、大丈夫だって。
バッチリだってあいつがそう言ってたんだ。
俺たちはそれを信じるだけさ。」
「「 その通り! 」」
「洋平くん……みんな……」
水戸はすかさず晴子を励ます。
高校に入学し、初めて没入するものを見つけた親友の桜木花道。どんな手を使ったのかは知らずともバスケットへの情熱を身体を張って伝え、綾を勇気づけたのだと信じていた。
――‥
ここで時は戻り、長い長いハーフタイムを終え
バスケットマンによるバスケットウーマンのための天才バスケットマン教室。そのレッスン後半を振り返ろう。
綾が不審者に拐われてしまう二時間ほど前のこと。フリースローおよびスリーポイントの特訓後、再度コーチである桜木が主導権を握り彼女にレクチャーを行うことに。
「それでは後半、始めますよ!
バスケットマンへの近道・その6!
パスの基礎!」
「パスかぁ……この練習、入部したての頃も一緒にやったよね。覚えてる?」
「もちろんですとも!」
「手加減はなしで、って言いたいところだけど、少しだけ優しく投げてくれる……?」
「はっ、ハイ……!」
第6弾はパスの基礎。
得点を上げるには仲間と連携してどんどんボールを回していくこと。
二人は両脇に立ち、一直線に球を投げ合う。
「いつもゴリが、耳にタコができるほど言ってますが
何事にも……「基本が大事!!」」
「キャプテンの決まり文句だよね。私もそう思ってる。」
自然と声が合わさる。基本が大切だと常日頃から徹底的に叩き込まれている桜木。
日中の空は明るく、対して夜は暗い。そんな当たり前なことと同等に頭の中に深く植え付けられているのだ。
「さすが綾さん……!
パス&アシストパスは、ドリブルと同じくバスケットの基本テクニックです。ボールを早く運びたいときなど、味方に渡してポイントを稼ぐんスよ!
翔陽戦のとき、それを無視して独りよがりなプレイをした奴もいましたけど!」
「にゃろう……」
「こ、コーチ……」
引き続き三井、木暮、流川も同席し二人の挙動をうかがっていた。
桜木は直近の試合のあるシーンを蒸し返し、単独プレイでひとり目立っていたことが気に入らなかったとわざと相手に聞こえる声量で話す。
ちっともボールを回しもしない身勝手な男だと、そう決めつけているのだ。
「やっぱり、コーチが先頭に立つと
バスケットマン教室って感じがするね!」
「ぬ、先頭……? センドー……?」
「あの……
この間、センドーは他に綾さんに何を……」
「え……?」
そんな中、少しでも雰囲気を良くしようと綾は思ったことを述べると桜木のひとり連想ゲームが始まり、訪問してきた仙道に何を言われたのかと聞かれ‥‥
「最初にね、ペアチケットをもらったの。
海南戦は必ず観に行くからお互い予選頑張ろう、って。
あとは桜木と流川によろしく、って言ってたけど……」
「なっ……!」
「!」
(( ペアチケット……!? ))
――‥
藤真さんを誘ってみたらいい。
そうすれば真実が分かるはずだぜ、きっと。
水族館の件だが……前向きに考えておくよ。
それは、裏を返せば綾のことが心配で心配でたまらないってことでしょ!
‥――
( 真実……
何が分かるのか……まだ分からない……
少し気が引けるけど……
健司くん、快くOKしてくれるかな。
水族館とか遊園地、好きかなぁ。
みんなでワイワイなんて賑やかで絶対に楽しいよね。
カナちゃんが言ってたこと、ホントかな……?
でも、みんなで行くんだもん。何も心配いらないよ。
紳ちゃん……
私、紳ちゃんが来てくれなきゃイヤだよ。
貴方とだって、思い出を作りたい。
今までのこと、消したくない。消えてほしくない……! )
恋人のやわらかい表情が目に頭に、心に浮かび上がる。
しかし、現実は過酷。
彼女のウォームアップが終わる(彼に逢える)のは
あの辛い辛い試練を乗り越えた数時間後のこと‥‥
( お、おのれ……
何がよろしくだ、あのカッコつけ野郎が……!
ペアのチケットまで持参して
はじめっから綾さんと二人きりで行くつもりだったんだな!
当日はこの俺も同行するんだ、てめーの好き勝手にはさせん!!)
嫉妬心から腕に必要以上に力が入ってしまう。
そして
ドッジボールの様なスピード感あるパスが彼女の元へ‥‥!
「「 春野! 」」
「……!?」
バシッ! といったキャッチ音が響き渡る。
目の前に見上げるほどの大きな影が現れ、彼女を庇う。
「ナイスパス。」
「楓くん……!」
「綾さん、すみません……
おのれルカワ!
何が楽しくて野郎とボール投げなんか……!」
「ボーっとしてんな。」
「ご、ごめんなさい。」
「くぉら! 無視すんな!」
パスが必ずしも成功するとは限らない。
先ほどの発言を気にしているのか、流川も力任せの投球で突き返した。
桜木のスポーツマンらしからぬ発言の連続に余計なことを言ってしまったこと省みる綾。
また、仙道をはじめ様々な人物の顔がチラついたが今は稽古の最中であることを肝に銘じるのであった。
「それ以上はテクニカルファウルだぞ……」
「気が済むまでやってろ。
アイツはいいから続けるぞ、春野。」
相手の悪口を言うなど、彼のスポーツマンシップにそぐわない発言に上級生コンビは呆れ気味だ。
「え、でも……それだとコーチの立場が……」
「立場?」
「しかし、予備知識もあって驚いたよ。
しっかりコーチらしいコーチしてるもんな、桜木は。」
「甘いぜ木暮。荒削りのクセに見栄ばっか張りやがって。コーチなんて10年早いんだよ。」
「三井。」
「春野! 基本のバウンドパス、いくぞ!」
「は、はいっ!」
この度の " 天才になるための近道 "
時には人の上に立ちたいだろう。ならばコーチとして教える立場に立ってもらおうと始めたもの。
また、彼は綾と二人きりで行いたいのだろうが残念ながらその願いは叶わない。
他にもレッグスルーやバックパウンズなど様々なテクニックがあるが、あくまでこれはビギナー向け講座。
そして彼女の心の隙間を埋めるための一つに過ぎない。
コーチと生徒という設定を完全無視し、先輩風を吹かす三井は簡易的なバウンドパスをしようと指示を出す。
部活動外での個人的指導教室。
当然、体育館の外は真っ暗だ。綾のためにも常識的に遅い時間は避けようと焦る一同。
そのため、ここからは早送りでその様子を見ていこう。
「ミッチー! メガネ君! 勝手なマネはさせん!!
続いてその7、ボールハンドリング!!」
「えっ……コーチみたいに早くできるかな?
あんまり自信ないかも……」
「ダイジョーブです!
これはボールに馴染むためと、持久力の練習です。近道を歩んできた綾さんなら、きっとできますとも!」
「ありがとう。
持久力……よーし、頑張ってみるね……!」
桜木のウォームアップ方法といえばこれ。
前半のダッシュで即バテてしまった綾は、持久力をつけたいとその言葉を耳にした途端にすぐに実行に移した。
素早く体の周りや足の間にボールを回し、何度も何度も繰り返す。
その間、球を一度も落とすことなく数分間やり切った。
「「 おー。」」
「ふぅ……どうかな……? コーチみたいにあんな早くは無理だけど、少しでもスタミナをつけたくて……」
( スタミナ…… )
「綾さん! ブラボー!」
「オッケー、オッケー! それだけできれば上等だ!」
「あ、ありがとうございます。」
頑張りを認められ綾は照れ笑いを浮かべた。
つい今しがた流川の眉間が微妙に動いたが、誰ひとり気付いてはいない。
来たる強者揃いの決勝リーグに向け、スタミナの有無が試合にどう関わってくるのだろうか。
「そして8、9!
スクリーンアウト、リバウンド!!」
「この二つは、すっごく重要だね……」
「ええ、ゴール下は戦場です。
体を張って相手を外に締め出す!
リバウンドのとき、有利な位置を確保するためです!」
桜木花道主催のバスケットマン教室もいよいよ佳境に迫ってきた。
陵南との練習試合前日、赤木とのマンツーマン指導で培った彼が最も得意とするリバウンド。
こぼれ球を自分のものにし、かつ攻撃のチャンスを増やすためにもこのスクリーンアウトは欠かせない。
「春野、手足を広げてポジションを取れ! コイツを入れさすな!」
「はいっ! こ、こうですか!?」
「うまい。」
「桜木! 体に触れたら一発退場だぞ! 分かってんのか!?」
「わっ、わーってらい!!」
「ケイベツのまなざし。」
「コーチ……!?」
三人は継続してコート内で補佐をしていた。
ゴール下で絶好のポジション取りのため悪戦苦闘している綾に声援を送り、桜木には野次を飛ばす。
「大丈夫なのか……!? さすがに男女の体格差が……」
( 綾さんが、こんなすぐ近くに……!!)
木暮が不安や心配の声を上げるのも無理はない。
なぜなら、まず身長差がありすぎること。
次に、体格が綾と桜木では雲泥の差。
そして一番の問題は二人の身体が密着してしまっていることだ。
背後から抱きしめることも充分に可能な距離感であり、これはあまりいただけない。
さらにはプレイに全く集中できておらず当の本人は辺り漂うシャンプーの様な香りに酔いしれている。
― すると
後方から三井がシュートを放ち、そのままリバウンドのチャンスが巡ってきた‥‥!
「リバン! 春野、そこだ! 高く跳べ!」
「はいっ!」
「ハッ! し、しまった……!」
彼女の香りに誘惑され隙を見せたその一瞬の時を突き、リングに当たったボールを取るよう命じた。
「ほっ……!」
「ヘイ」
「楓くん……!」
綾は精一杯、力一杯に跳んだ。
ボールを手にしてすぐサイドに立つ流川にパスを回す。
放たれたそれは華麗に上空を舞い、ゴールネットをくぐり抜けた。
「やったぁ! 楓くん!」
「ウス。」
「どっちも良かったぜ。」
「ああ、男女の差をモノともしない良いプレイだったよ。」
「先輩……!」
桜木以外の男たちとハイタッチを交わす。
ボディタッチ、そして癒しの微笑みに触れ、流川の頬はほんのりと赤い。
正反対にずううんと黒く暗く沈んだ表情の彼。
心配になった天使は駆け寄り、声をかける。
「コーチ、大丈夫……? 具合でも悪い……?」
「綾さん。いえ、そーいうワケでは……
すみません、本来なら俺が……」
「ううん。謝らないで。さっきはどうかした?」
「いや、イイ匂いがして、ついボーっと……
香水か何かでしょーか?」
「香水は校則違反だし、してないよ。
あ……! もしかして、ヘアオイルかも?」
「ぬ? ヘアオイル……?」
「うん。このお花の香り、気に入ってるの……」
気付いてくれて嬉しい、と乱れた髪の毛を触る。
匂いの元は日々愛用しているヘアオイルだった。
男性陣を魅了するどこか甘く瑞々しい花々の香り。
もちろん牧も綾の一部分であるそれに心を誘われることもあるだろう。
これだけでも女性としての魅力はあるが、彼女には多方面においてエッセンスを加える必要がある。
この時点ではレッスンを修了していないどころか、彼と顔を合わすことすら出来ていないのだから‥‥
「近道もついにラスト! と、言いたいところですが
ここで番外編!
ゴリ直伝の極意・眼で殺す!!」
「めっ、眼で……?
物騒な名前だね。ちょっと怖い……」
最終段階だと思いきや、ここでまさかの番外編に突入。
彼女はその名称に少々怯んでいる。
「まぁこれはてんでダメなんすけど。」
「そんな技、見たことも聞いたこともないぜ。」
「赤木の奴……また秘密で特訓を……」
「…………」
前例を見ない技に周囲の期待値が高まる。
これは連続退場をするまいと赤木から直々に伝授されたもの。ところが、実戦ではまったく効果は得られず。
特別にとレクチャーをするが、好きな人の前ではカッコ良くいたいのか。その経緯を語ることはなかった。
「相手にガンつけて、圧力をかける!
さあ、綾さんも!」
「分かった、やってみる……!」
急きょ開始された桜木とのマッチアップ。
オフェンスの際、綾は教わった通り相手の眼球をじっと睨みつける。
「む〜っ……」
「!?」
あまりお目にかかれない表情と身長差による上目遣いに
桜木の顔はみるみる赤くなり‥‥
長いこと見つめられ、床に崩れ落ちてしまった。
「コーチ……!? しっかりして……!!」
「なるほど。殺された。」
「悩殺だな。」
「はぁ……」
( 綾しゃんが、オレを…… )
喧嘩は驚くほど強いが、女性にはめっぽう弱い。
ノックダウンしたというのに彼はとても幸せそうな表情だ。これは技を習得できたとみなしていいのだろうか。
「近道」というネーミングの割には割と長い道のりであった。いよいよ次こそが、正真正銘のラストだ。
「これで最後となる近道は……」
「もしかして、レイアップ?」
「ザッツライト! そう、庶民のシュートです!
これには様々な思い入れがありまして……」
「うん、私も……」
――‥
いいか、綾。
レイアップはバスケットの基本且つ確実性のあるシュートだ。これを押さえておけば、その名の通り確実に点を取りに行ける。
お前はディフェンスの切り抜けがうまいからな、大丈夫だと思うぜ。
膝は柔らかく、ゴール下のペイントラインまで来たら二歩目で踏み切って出来るだけ高くジャンプだ。
そしてボールはバックボードに当てるようにバンクショットで決めてみろ。
ステップ・ジャンプ・リリースのリズムでやるといいかもな。
ナイッシュー、綾。やったな!
‥――
春、夏、秋、冬。一年を通して
彼女の胸の中には、牧と過ごした思い出が無数にある。
膝はソフトに、ハイジャンプで、ボールをリリース。
基本のシュートであるレイアップもそのひとつ。
リズミカルに覚えると良いと教わり、鶯が美しく鳴く春めいた頃には桜木に手本を披露。
彼が恋人だとメンバーたちに打ち明けた日でもあった。
「ウン万人の声援も、綾さん一人に敵いません。」
「えっ……」
「あなたの声援はウン十万人の声援にも勝ります。」
「桜木くん……?」
「綾さん、俺は ーー」
‥――
ここで突然のシャットダウン。
向かい合わせの途中でカーテンは閉められてしまった。
男・桜木花道。告白とも受け取れる言い回しの先には、一体どんな展開が待ち構えているのか?
そして
敵対視する牧率いる不動の県下No. 1チームを相手に、湘北チームに勝機はあるのだろうか。
各々の想いを胸に彼らはコートへと繰り出してゆく‥‥!