最大の試練 編
name change
夢小説設定ここでは名前を自由に入力できるぞ。お前の好きな名前を入れてみてくれ。それにより面白みも増すだろ。
と言っても女性ばかりだが……
ん? 最後だけ男か。奴は、アイツが初めて……
いや、すまん。何でもない。では、よろしく頼む。
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「とある気持ちが詰まった、一点モノだ。」
骨格のある大きな手から柔らかな小さな掌へと
差し出されたものは、ファンシーな可愛らしい包装紙。
中には彼女同様あまり主張の激しくない
向日葵を模した小さなヘアピンが入っていた。
「かわいい……! どこでこれを……?」
「さっき立ち寄ったコンビニで買ったんだ。」
ピアスやペンダントなど様々な品物が並ぶ街の雑貨店。
密かにプレゼントを用意していた藤真。
何食わぬ顔でさり気なく手渡すそのそぶりは、あたかも衝動買いでもしてきたかのよう。
( とある気持ち?
髪飾りって、コンビニに売ってたかな……?
それに、ラッピングまで…… )
「好きじゃない奴からもらっても嬉しくないと思うが……」
「ううん、そんなことないよ。
すごく嬉しい。どうもありがとう……!」
「春野……」
" 彼氏以外の男からなどきっと迷惑だろう "
購入したはいいが若干後ろめたさを感じていたのか。
が、表裏のない性格の綾。
予想に反して歓喜する姿に報われたのだった。
先ほど彼女が語った四点の気持ち。彼の言う一点モノには一体どんな想いが込められているのだろうか‥‥?
「良ければつけてみてくれ。」
「うん。」
パッケージの袋から取り出しサイドの髪を留めた。
すると顔全体が見渡せ、幸福な色合いの蕾が花を開く。
「どうかな? 似合う?」
「ああ……すごく、綺麗だ……」
向日葵の花言葉は " 憧れる "
藤真の頬がコーラルピンクの色に染まる。
綾は戸惑う。
留めたと同時に、彼の顔がすぐ近くにあったから。
( えっ…… 健司くん……?
何度見ても、キレイ…… 宝石みたい……
ターコイズとかコバルトブルーとか
氷穴の中の湖みたいに、すごく澄んだ青い瞳…… )
ーー‥
一応気をつけとけよ。
神や藤真は友かもしれんが……アイツらも、男だ。
綾…… これは、もしもの話だが……
以前、藤真には恋愛対象として見られていないと言ったな。
だが奴は……
お前をそのように見ているとしたら……どうする?
‥ーー
( 紳ちゃんが、あんなこと言うから……
あれは危ないから用心しろってことだよね。
だけど心配いらないよ。
彼とは、ただのお友だちだもん。
さっきだって、確かに本人の口からそう言ってたし……
ねぇ。本当にそう……だよね?
健司くん…… )
その言葉の真意も頬を赤らめたことも気になるが、彼女が着目するものは
青年の人となりを表す様な、光り輝く碧い瞳。
真っ向からこちらを真っ直ぐに見つめてくる。
気をつけるもなにも、彼はただの友人。
接点はあっても男女の関係ではない。
恋愛対象‥‥それは牧の思い過ごしではないのだろうか?
実際、昨日も神とは何事もなかった。
自身を一人の女性として見てくれているなんて。
そんなわけない、と思いつつも妙に意識してしまう。
「紳ちゃんに話してたんだね。バスケのこと……」
「ああ……悪いとは思ってる。」
「…………」
次第に二人は勾配のある芝生の上に腰を下ろした。
ここらで方向転換をしようと、綾はバスケットの話題を持ち出す。
おととい牧が電話で明かしていた。
藤真が相談内容を漏らしていたという驚愕の事実。
今となっては良くとも、少し前までは絶対に知られたくないことだった。
「だが、言わずにはいられなかったんだ。」
「……どうして……?」
( 何ひとつ着飾らない……
大好きな君を、悲しませたから…… )
「……それはもちろん、牧が関係していると思ったからさ。」
「そっかぁ……」
「…………」
一度は縁を切ってしまったこと。
また、バスケットとは互いにつかず離れずの関係にある。
だから牧に告げ口をしたのだと、ひとり納得していた。
なんて不安定なのだろう。
バスケットを嫌いになってしまうこと、それは表沙汰になった。
湘北と海南。試合は明日だというのに
どちらを応援するべきなのかが分からず迷っている。
あとほんの少しの心の迷い。
牧が、愛しの彼が、なんとかしてくれる。
案内人となって光の世界へ導いてくれる。
けれど、そこへ羽ばたいていけるかは自身の手にかかっている。
隔たりであるこの巨大な壁を乗り越えられるか‥‥?
彼のあの誓いを忘れたわけでない。
しかし本当に、自分の心の隙間は埋まるのだろうか。
今になって不安になってしまっていた。
例えるならば、街中の公衆電話。
ガラス張りの部屋にでも閉じ込められているよう。
彼との距離感。彼に逢えない淋しさ。
何があろうとも本人に胸中を打ち明けることはなく、その施錠された密室でひとり我慢に我慢を重ねていた。
固くも脆いやつれきった心。果たしていつこのロックを解除できるのだろうか。
「あ、そうだ……!
おかげさまで、原点に帰ることができたよ。健司くんのアドバイスがあってこそだもん。
本当にありがとう……!」
( 春野…… )
「いや、礼には及ばない。」
たった今、無事に原点回帰ができたことを告げた。
技術面や精神面においてもまだ不完全な箇所はあれど、以前の自分よりも確実に向上している。
さらには牧と再スタートを切ったばかり。
にも関わらず時々彼女は浮かない顔を見せていた。
全てを彼に託し、もう安心しきっても良いのでは?
なぜ覇気がないのか疑問に思った彼は‥‥
「……らしくないな。」
「えっ……」
「自分を見つめ直し、克服できたのなら
もう悩みはないはずだ。」
「…………」
「それに、俺が見たいのはそんな顔じゃない。」
( 輝くような、君のあの笑顔だ…… )
「春野。」
「ひゃっ!」
冷たい感触に驚く。
振り向きざまに、頬に何かを押し当てられた。
「ほら。」
「! これって……」
今からちょうど二年前‥‥
偶然にも試合会場で出会った二人。
自動販売機でのあの一件が思い出される。
ーー‥
君、甘いものが好きなの?
翔陽高校一年の、藤真健司だ。初めまして。
君がオススメするなら、俺も買おうかな。
君も今が旬な選手って言われてるよ。知ってた?
笑顔が可愛くて、魅力的だって皆そう言ってたよ。
……俺もそう思う。
‥ーー
「自分に、負けんなよ。」
「健司くん……」
見兼ねた藤真が差し出したもの。それは
今度こそ間違いなくコンビニで販売されていたであろう
苺ミルクの缶だった ―
ーー‥
仙道くんは……芸能人みたいなもんだよ。
テレビとか雑誌とか、違う次元に存在する人って感じ。
‥ーー
言われた瞬間、綾は自身も知り得なかった気持ちに気付いた。
この人はいつまで経っても憧れのままで、それに付帯して大切な人であることに変わりない。
切り離せない存在なのだと確信した。
いつしか親友が話していたこと。
芸能人みたいなものだと‥‥
胸の中で唱え続け、先ほどから騒ぐ心を落ち着かせた。
甘酸っぱい苺と、コクのあるミルクが織りなす
まろやかなハーモニー。
一生懸命にならずとも、既にパワーをもらっていた。
その思いやりの気持ちだけで心は充分に温まっていた。
彼の方こそ、彼女を元気づけたかったのだろう。
バスケットを無理に好きになることはない。
初心に返り自分自身を見つめ直す。
身を粉にして頑張っているであろう、綾へ藤真からの第二の贈り物。
「君には、まだ何か足りないものがある。」
「私に……足りないもの……?」
「ああ。それが何かは、自分で見つけるんだ。」
ーー‥
以前、藤真から聞かされた。
バスケットを嫌いになりそうだとな……
苦しんでいるのを分かってて黙っているのは俺も心苦しかった。
代われるもんなら代わってやりたいとも思った。
だけど結局、自分を変えるのは自分自身だ。
努力している人間にやめろとは言えんからな。
‥ーー
何をするにも、結局は自分自身。
自ら取り組むことが極めて重要。
思い返せば彼もそんな風なことを話していた。
「何か」の確証は得られなかったが‥‥
今しがた藤真が大切で切り離せない存在だと気付けたばかりだというのに。
その張本人から、また新たな「何か」が生まれた。
「うん、分かった……! 頑張って探してみるね……!」
「その意気だ。」
「もし、それを見つけられたら……」
「ん?」
「心の隙間を埋めることができたら……
出会った頃みたいにまた三人で笑い合えるかな……?」
「……!」
先日桜木とボール研きをしている際、ひらひらと宙を舞った例の牧、藤真とのスリーショット写真。
またこんな風に三人で仲良く過ごしたい。
当時の様に笑い合いたいと話すが‥‥藤真はあまり乗り気ではない様子。
その理由は、おそらく
彼女が苺ミルクよりも、ミルクティーを選んだから ―
「……分からない。」
「そ、そっか……そうだよね。
今度、バスケで決着をつけるんだもんね……」
「ああ……曖昧な回答で、申し訳ない……」
「ううん。」
しゅんと肩を落とす綾。
ポケットアルバムに大事に仕舞っており
今その確認は出来ないが、同等に彼の視線が自身に向けられていることに彼女は気付いていなかった。
( 期待に添えず、本当に申し訳ない。
友好関係を築くことは難しいだろうな。
きっと笑い合えはしない……
牧と、" 君をめぐって " 争い合うのだから…… )
「……それでね。
予選が終わったら、みんなで水族館に行かない……?」
「えっ?」
「ごっ、ごめんなさい……!
やっぱり、無神経だったよね……!」
「水族館か……いいな。是非とも行かせてくれ。」
「えっ……本当……?」
「ああ。」
直後、場所は「アクアリウム横浜」であることを伝えた。
伝えていないのは
具体的な日時、そして主催者が仙道であること。
試合直後に誘うことはあまりに配慮が足りないのではと
ためらい連絡もしなかったが、度胸を持って聞いてみれば意外な返答が。
なんと藤真の方から行きたいと申し出たのだ。
どうやら過度な心配だったらしい。
「今日はなんとも贅沢な時間を過ごせたな。
これも春野のおかげだ。ありがとう。」
「ううん、こちらこそ……」
「ヤキモチ煎餅、とてもうまかった。
五臓六腑に染み渡ったよ。」
「えっ……おせんべいなのに?」
「ああ。」
口元に手を当て、くすくすと小さく微笑む。
すんなりOKをもらいよほど嬉しかったのだろう。
そのハッピーな感情はモロに表情に現れていた。
「どういたしまして! 喜んでもらえて良かった!」
「……!」
その声、仕草、姿形に、ドキドキと感情が高揚する。
( 参ったな…… かわいいにも程がある…… )
向日葵が明るい陽の光を欲しがり、また目指す様に
彼の恋心もぐんぐん伸びてゆく。
一日でも早く、八分咲きに咲く彼女の笑顔が見たい。
願いは、ただそれだけだった‥‥
( 心の底から思う。本当に贅沢な時間だった。
こんな穏やかな時間を過ごしたのはいつ振りだろうか。
やはり女子には
春野には……花がよく似合う。
俺からの励ましなど微々たるものだが、役に立てたのなら本望だ。
悪い……またしても余計な心配をかけてしまったな。
っ……
完璧に、しくじった。
あの噂を耳にした瞬間、全身の血の気が引いた。
ならず者の手によって恐怖に打ちひしがれていた時に
俺は、俺は……!
何もできなかった自分をどうか許してほしい。
それなのに……
天使は、優しいな……
あらためて思い知らされた。
君のことを想えば
いつだってこの胸は高鳴り、切なくなる。
自分の気持ちに嘘はつけないのだと……
君は、あのヒマワリのように明るく伸びてゆく
俺の憧れの人なんだ。
いつまでも笑顔を失わずにいてほしい。
横浜の水族館か……あそこには
恋に効く、とあるジンクスがあるらしい。
そんな噂話に乗っかるつもりはないが
せっかくの機会だ。
華やかで煌びやかなその土地で
この溢れんばかりの気持ちを伝えるのもいいかもな。
たとえ勝負に勝ったとしても
いずれにせよ、君は奴のもとへ行くんだろう。
そんなことは分かってる。分かりきっている。
だが、愛の告白にはまだ早い。
少なくとも今はまだ、この関係のままでいたいからな。
それにしても、なんだか雲行きが怪しい。
何か、あるな……
まさか……
また牧は、彼女に淋しい思いを……? )
「じゃあな。俺もこれから練習があるから。」
「うん。今日は本当にありがとう……!」
「どういたしまして。
……春野。」
「ん?」
「明日(あす)の海南戦……
俺は観に行けないが、頑張ってくれ。
そこできっと足りないものが何か明らかになるはずだ。」
「健司くん……」
ピンチはチャンスだ、と
励ますどころかまたしても励まされてしまった。
何か私用でもあるのだろうか?
行けないのではなく、行きたくない。
見たいようで、見たくない。
本来ならば俺たち(翔陽)が頂点に立つはずだった。
自分たちのチームを差し置いて勝ち進み、また目標にしていた海南が敗れる場面はきっと見たくないのだと、綾は虚無感ともいえる彼の空虚な感情を瞬時に感じ取っていた。
その後
最寄り駅まで歩き、別れの挨拶を交わした。
二人は午後からの練習のため各々の学校へと向かう。
わだかまりを抱える中、果たして大きな壁を乗り越えられるだろうか。
いつだって彼に‥‥愛しき人に逢いたい。
将来を見据えてはいるが
今の自分では器が小さく、そこまでに至らない。
家に送り届けることが彼氏の務めならば
この度の責任も己が背負うことが定石。
一刻も早く綾を救いたい。真の心を取り戻させたい。
牧と真っ向勝負をし、彼女の心を振り向かせたい。
今はまだその時でなくとも、いつかきっとこの高鳴る胸の内を伝えたい‥‥
――
冬の選抜大会に向け、翔陽高校バスケ部の練習に熱が入る。
上質でロイヤルなひとときを堪能した藤真。
彼が終始上機嫌だったことは、言うまでもなかった。
「いやにご機嫌だな。
何かいいことでもあったのか? 藤真。」
「……なんでもない。
だが、たまの間食もいいものだな。
あんなにスタミナのつく煎餅は初めて食べた。」
「煎餅? スタミナ?」
「ふっ……」
( 至福の時間をありがとう……
頑張れ、春野……!!)
果たして彼女に不足しているものとは‥‥?
綾、牧、藤真
それぞれに揺れ動く心。
やはり、運命の歯車は確実に回り始めていた ―