走る、君の元
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傘も持たずに家を飛び出し、ラタルはダリアの家へと急いだ。
水溜まりを蹴散らし、雨に打たれ、ひたすらダリアの事だけを想って走った。
鍛え上げた自分の足すら、もどかしくなる程に心は急いて……
何と言おうか、とか
そんな事は考えてもいなかった。
ダリアの家は一階が本屋で二階が自宅になっている。
両親がいない上にダリアは今まで不在だったので当然営業はしていない
はずなのに
店のシャッターは半分開いていた。
荒れた息を静かに調え、ラタルはそのシャッターをくぐって店の中へと入る。
電気も点けず、狭くて真っ暗な店内で
ダリアはカウンターではなく古書のコーナーに佇んでいた。
「……濡れたままじゃ風邪を引くぞ」
まだ自宅に上がっていないようで、濡れた髪が絶えず雫を落としていた。
少し、緊張しながら傍に行ってみる。
ダリアはただ、本棚に並ぶ古書を眺めていた。
長い沈黙。ラタルは何も言わず、ダリアの言葉を待っていた。
暫くして、ダリアが静かに口を開いた。
「……いつも、ここにいたよね。
まだ小さいのに、随分難しいのを読むんだなぁって思ってた」
ふふっと零れる笑い。
9歳だった彼との出会い
私は店番をしていた父にお茶を運ぶよう頼まれて
渋々店に下りてきたの
そしてここに
ちょうどこの場所に立ち、熱心に本を選ぶ彼に一目で恋に落ちた
「あれからお父さんに店番をしたいって頼んで…私の本音なんか知らない家族は凄く喜んでたなぁ。
うんと褒められちゃって逆に申し訳なかった」
ダリアの話を、ラタルはただ黙って聞いている。
ダリアは真っ直ぐに前を見据えたまま。
雨の音が店の中にまで響いている。
「初めてラタルくんのレジを打つ時は緊張しすぎてお釣り落としちゃって…初めて話しかけたのは何年か経ってからだった。
急に降ってきた雨の空を見上げてたラタルくんに… " 傘ありますよ " って……」
「ああ、覚えてる」
通り雨だったから
雲が流れるのを待っていた
そしたらそれは恵みの雨だった
軒下で長い話をしたっけ
本の事ばかりだったけど
「嬉しかった……凄く凄くドキドキした……
あんな幸せな気持ち初めてだった。
それから沢山話せるようになって、仲良くなって、そして……」
" 声、かけてくれて嬉しかった
一目惚れだったからな "
" 早くダリアの背を越して上からキスをする
俺の目標だ "
その日から、毎日が特別になった
何度も何度も幸せをくれた
愛をくれた
ずっとずっと
私は彼の傍にいたい…と……
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