刃-やいば-
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ルルは何も言わず、ラタルの行動、行く先を見守った。
ダリアへと向かう足取りは酷く重そうで、辿り着くまでがとても長く感じた。
「ダリア……ただいま……」
心なしか、泣きそうな声で告げられた帰還にダリアは反応を見せなかった。
まるで標本の美しく張り付けられた蝶のように、紅い髪だけが映えて
「心配、かけたな。俺はこの通り無傷だ。
これからも……約束を破る事はない」
だから、心配するな
だから、泣いたりするな
だから、いつでも俺を信じていてくれ
君の待つ場所へ必ず帰るから
だから
だから
俺の側から
隣から
いなくなったりしないでくれ――――
そんな胸を埋める不安要素達は、口から出てはくれなくて
「ダリア……大丈夫か?」
答えを待つ問い掛けしかできなくて
……そんなラタルの震えそうな思いに、ダリアは漸く顔を向けた。
「ラタルくん……これ、抜いてくれる?私には抜けなくて…」
「……ごめん」
言われるがまま、ダリアの胸に刺さった銛を抜く。
その瞬間、開放されたダリアは自分の体が意思通り動ける事を確認しながら体を起こした。
「……ありがとう……」
納得したように口の端を上げ、礼を言ったところで
心中は違うのだと明白だった。
「俺のせいでこんな危険な目に遭わせてすまない。理解…できないのは当たり前だ」
計算ではなく、俯いてしまった。
ダリアの目を見れない。
何かが、もう取り返せない明日を報せるように心臓を打つ。
「……その目……生まれつきなの?」
「ああ……父の種族の名残で……気が高ぶると瞳が朱くなる」
「私に刺したのは……何?血も出ないのに動けなかった……」
「俺の特別な能力だ。動きを封じる事ができる。……ダリアに使う日がくるとは思いもしなかった」
「そう……」
残念そうに顔を背けるダリア。
その気持ちをどうか声に出して欲しい。
でも、その横顔には何一つ曇りはなくて
ただ、涙が一筋、流れていた。
「ラタル!怪我、ないの!?本当に!?
足、赤くなってるのは……」
ヨロヨロと覚束ない足取りでこちらへ来ようとしていたルルが、何の障害もない道で転んだ。
「ル…」
「大丈夫!大丈夫よ。それより……ラタルは大丈夫?」
血が足りない顔で、それでも声色だけはいつもと少しも変わらない。
それは……
わざと、だろう?
・