ユメ、マボロシ
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それから交わされたのは他愛ない話ばかりで、やはり主に旅団のメンバーの事だった。
皆と縁を断っていたクロロより、男はよっぽど仲間の現状を知っていた。
何故知っているのか、という事も聞いた。
興味深い話だった。
そして時間はあっという間に過ぎていった。
「おっ、そろそろ時間か。今日は来てくれてありがとな、団長」
「ああ」
「まだこっちに来る予定はねぇんだろ?」
「さぁな。流れに任せてる。
ずっと先かも知れないし、明日かも知れない」
「…長生きしろよ、団長」
珍しくしんみりとした声色で男が言った。
「できればな」
クロロは小さく頷き、短く答えて笑った。
目の前に現れる一本道。
振り返らず、前へ進む為だけの一本道だ。
この森へは、一度足を踏み入れた人間は二度と入る事はできないらしい。
あとは自らが死んでからの再会となる。
「じゃあな、団長!いや、クロロ!」
「ああ……また会いましょう。ウボーさん」
最後の挨拶を交わし、クロロは彼に背を向けた。
濃くなっていく霧の中、独り、一本道を進む。
その時……
背後から声が聞こえた。
今しがた会っていた仲間の声じゃない。
クロロは立ち止まり、耳を澄ませた。
「……て……」
「……も……を……」
一人じゃない。
何人も何人も、数多の声。
追い縋るような弱々しい声や、張り上げられた怒声、罵倒……
ふと、クロロはこの森へいざなった案内人の言葉を思い出した。
"逆に相手の方が強く思っていれば、貴方が思いもかけない方とお会いする事もあります―――"
「あぁ……成る程な」
遠巻きに背中に投げかけられる声は止む事はない。
目を閉じ、ひとつひとつを拾い上げようと更に耳を澄ませる。
わぁわぁとノイズのような騒がしい、声というより音のような中に
「何故殺した!」
「何故私だけでなく、子供まで……」
「ちくしょう、ゴミでも捨てるように全部お前らに奪われた!」
「我らが何をした!?」
「貴様が憎い!よくも…よくも…!」
「返せ!あの幸せを」
「返せ!!」
返せ!!返せ!!返せ―――!!
――慣れたものだった。
こんな憎悪を向けられる事など。
怖くもなかった。
むしろ、その思いすらゴミ以下にしか思っていなかった。
どうでもよかった。
しかし、今
……胸を刺される。
あの娘と出会い、愛したその時から、人生というものが始まった。
生きている事に意味があるのだと知った。
何故、生まれたのか
何故、生きているのか
親も、血も、自分の根源を何も知らないというだけで、己が何者であるかという果てのない追求をしてきたのだ。
そして出会った。
教えてくれた。
今、俺はようやく皆と同じ人間だ
だからわかる
痛みも辛みも、憎しみや悲しみも
「……すまなかった」
心の底から初めてそう思い、口にした。
そしてクロロは
静かに、振り返った―――
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