霧の向こう
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「まず、会いたい方に会えるかは相手の方のお気持ち次第です。
貴方が会いたいと思っていても、相手の方がそう思っていなければ会えません。
その時はどんな方向へ向かおうとも、勝手にこの出口へと辿り着きます。
逆に相手の方が強く思っていれば、貴方が思いもかけない方とお会いする事もあります。
もし無事にお会いできた場合は、接触した瞬間から15分間、お話する事ができます」
15分――――
なんと短い事だろう。
ラタルは瞳を伏せた。
……しかし、会えるなら
ルルに会えるなら……!
「そしてお戻りになる時ですが、ひとつ注意点がございます。
それは絶対に振り返らない事。
会えた場合にのみ出現する一本道というのがございますが、必ず振り返らずにその道を真っ直ぐお戻り下さい。呼ばれても、縋られても絶対に。
もし振り返ってしまった場合、命を失う事になります。
前へ進む、その為だけの一本道です」
くれぐれも、と強く念を押す運転手。
ラタルはそれにも自信がなかった。
会えたら、もう離れられないだろうと思った。
しかし、隣にいるクロロの視線が、昨夜の言葉を思いださせる。
"死に急ぐな"
"絶対にリンを泣かせるな"
「わかっているだろうな」
「……ああ」
クロロの改まった確認に、少しの間を空けてラタルは頷いた。
「さぁ、それでは説明はこれで終了です。
この森へ足を進めれば、あとは勝手に運命が導いてくれるでしょう」
行ってらっしゃいませ
そう言って見送る運転手に、ラタルとクロロは同時に背中を向けて森へと歩き出した。
霧が深くなってゆく。
涼しすぎるくらいの霊気。
空気の澄んだ不思議な空間。
「……クロロの会いたい人とは……旅団の仲間か?」
前を向いたまま、ラタルが尋ねた。
しかし、それについての答えは返さず、クロロも前を向いたまま口を開いた。
「ちゃんと帰ってくるんだぞ、ラタル」
「……わかっている」
「お前が最後の一本道を戻る時は、置き去りにしてきた大切な家族の事を考えろ」
家族のいないクロロが、悲しい程に優しい声で言う。
「ああ……わかっているよ」
ラタルは瞳を閉じて心に受け止める。
「お前を必要としている人間が、お前をずっと待っているんだ」
「ああ」
「俺もそうだ。お前のお陰で……ありがとう……」
ありがとう―――
「……クロロ?」
ふと隣を見ると、そこにクロロの姿はなかった。
森に導かれ、それぞれが辿り着くべき道を分けた瞬間だった。
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