霧の向こう
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運転手に促されて乗った広いバスの中には、他に誰もいなかった。
1番最初に乗ったクロロは、至って平静な様子で入口から1番遠い席に座り、本を開いた。
「あわわわわわ、マジすか、マジな感じすか」
「どこに行っちゃう感じなんだい、どこに向かっちゃう感じなんだい」
夫婦揃ってガクブルな二人の背中を、運転手がドンッと押した。
「はっ、早く早く早く、のっ、乗り乗り乗り乗りなさい、早くっ!」
「わぎゃあっ!」
飛んで驚いた二人は半ばやけになりバスに乗り込んだ。
ラタルはそんな運転手に冷静に一礼した。
「…サウィリアーニャの森まで、どうかよろしくお願いします」
「さ、さ、さ、さ、30分で着く、大丈夫」
うんうんと頷く運転手。
ラタルはもう一度一礼すると、バスの中へ乗り込み、入口に1番近い席に座った。
「わーん怖いよナーリン、怖いよ!」
「うん、うちらダサいわ……」
運転席に座りハンドルを握った途端、運転手はキリッと襟元を正し、凛々しい表情でバスを発進させた。
シークとナーリンは直ぐさま席を移動してラタルの傍に座る。
「いよいよだな!ドキドキしてなんか震えちゃうの俺だけ!?」
「あたしもだよ!ルルちゃんに会えたら……言いたい事たくさんある……」
途中、声を暗くさせるナーリンの表情を見ると、早くも泣きだしそうになっていた。
「ナーリン……」
「あはは、私が泣くのは駄目よねぇ!メインはラタルくんさ、ごめん!」
パッと慌てて明るくごまかそうとするナーリンの頭を、ラタルはポンと撫でた。
「俺がメインだとか、そんな事を思う必要はない。
ずっと王族として暮らしてきたルルにとっては……そうだな、俺が知る限り指折り五人の中に入る友達だったんだ、お前達は」
「お……王族?」
「おうぞく?オーゾクって?」
唐突過ぎてポカンと呆ける二人に、ラタルはふっと笑った。
「そういえば何も話していなかったんだな、ルルの事」
「オーゾク?」
「お……王族……?」
「ルルは王女なんだ、ああ見えても。そして俺はルルの1番最初の友達だった」
ラタルは森に向かう道中の時間潰しに、ルルの事を話した。
何も知らないシークとナーリンに、ルルとの出会いからの全てを。
まるで自分の記憶を確かめるように、愛でるように
大切に辿りながら。
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