翼をくれた人
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雨足が強まって来た。
ラタルは抱きしめていたダリアの体を押して離し、濡れないよう店の軒下に入れた。
「……時間取らせてすまなかった…元気で」
グッと頬を拭い、ラタルはダリアの顔を見ないまま背を向けて歩き出す。
「あ、…ラ…、」
名残惜しさと寂しさに、思わず呼び止めようとした口を、自らの手で押さえた。
今、彼に何を言って救えるというのだろう
他でもない、彼の手を放した私が…
何も言えない…そんな力、ない…
でも…それでもーーーーー!
「ラタルくん!!」
道ゆく人々がみんな振り返るほどの大きな声で呼び止められ、足を止めるラタル。
ゆっくりと振り返ったその顔には、力無くもどこか驚きの色が浮かんでいた。
「…私…」
もし
もし、私達があんな風に互いに恋をして心を寄せ合うような出会いでなかった世界線に
もし、私たちがいたなら
あなたと私、何でも言い合えるような、小さな事でも笑い合えるような友達であったなら
今は切に、そうであったならよかったのにと……
そんな居場所になれなかった事が、今は心底悔しいけど
「ーーーーここに、いつでも来て」
「………え?」
「私は、ここに変わらずいる。どこにも行かずに……ここにいる」
何の助けにもならないかもしれない。
でも、移ろい、流れゆく彼の
故郷のひとつになれたなら
「私……ずっと変わらずここにいる。何年経っても、繰り返しここで歳を重ねて、生きていくの。
…だから、もし…懐かしい場所とか…故郷が恋しいとか…そんな気持ちになった時は…
いつでも会いに来てね」
あなたを一生、忘れずに
「元気かな」って
「無事でいるかな」って
いつも思ってる人間がいる事、思い出してほしい。
「ーーー私、ラタルくんの行く道を、ね…」
ずっとずっと、遠くからでも
「……応援、してるから……」
涙を流し微笑むダリアの声は、もうずっと震えていた。
雨が、徐々に上がっていく。
二人、別れたあの日のように。
そう…もう傘はいらないんだった。
「…ありがとう、ダリア」
優しい彼女がどんな気持ちで今向き合ってくれているのか、ラタルには痛いほどわかっていた。
ダリアも大切な友人を失ったのに、自分のこれからを何より心配してくれている。
「俺は生きていく。
ダリアも…どうか、元気でいてくれ」
どこに居ても、きっと想わない日はない。
きっとずっと大切な人には変わりないから。
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