翼をくれた人
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ふと、胸が痛んだ。
そろそろ母さんがメールを見た頃に違いない。
「ごめん……」
届かなくても、小さく呟いた。
父さんと母さんはきっと怒っていないだろう。
ただ、悲しんでいる。
「星なら山に登るか」
前を行くクロロが、振り返って尋ねた。
飛行機じゃつまらないと、港へ向かう途中だ。
「……何だか楽しそうだな」
何気なく言うと、クロロはふっと笑みを零した。
「さっきの台詞。昔リンにも同じ事を言ったんだ」
「さっきの?」
「 " 一緒に世界中を回ろう " 」
「ああ…」
「蜘蛛に入団させたくて口説いている時だった。こっぴどく振られたがな」
懐かしそうに遠くを見ながら、その時の事を思いだしているようだった。
「その台詞を人生でもう一度言う日が来るとは……
相手はリンの息子、しかも今回はちゃんと連れ出せた」
そう言って柔らかく微笑む。
胸のポケットから取り出したのはラタルから貰った写真。
「……あいつに見せるつもりだった全てを、他でもないお前に見せられる。その事が何だか奇跡に感じる」
クロロは立ち止まり、港の潮風を背中に受けながらラタルに向き直った。
「幸せだ。ありがとう」
―――それは思いもよらない言葉だった。
こんな時に、そんな事を言われるなんて。
到底、誰かに何かをしてあげるなんてできそうもない、こんな散らかった気持ちの時に……
クロロの言葉は
何故だろう、不思議にも胸に染みてゆく。
「……あなたは、似合わない事ばかり言う」
「はは、その通りだな」
クロロは無邪気に笑う。
こんな笑顔、 " あの頃 " はきっとなかった。
クロロは過去の自分を、ちゃんとどこかに捨てて来たのだ。
そして、ようやく本当の自分を見つけたのかも知れない。
乗船の手続きをする際、行き先は任せると言ってクロロは星の綺麗な国の候補をいくつか挙げた。
少し考えた後、ラタルはふと思い立った。
最後に、会わなければいけない人がいる。
・