彼氏・キルア・24時ー後編ー
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洗面台から持って来たハサミをキッチンで焼き、臍の緒を切った。
そして、赤ちゃんの方の切り口を清潔な布で縛る。
『じゃあ、悪いけど気をつけて洗って来て。
血を洗い流す程度でいいから。
石鹸とか何も使わないで、指でね。首支えてね』
「わかった……」
自信のなさそうな返事。
リンは不安げな顔でバスルームに向かうキルアを見送る。
バスタブに張ったお湯は大分ぬるま湯になっていた。
「大丈夫かよ……」
緊張しながらソ~ッと赤ん坊の体をお湯に浸ける。
「あー」
赤ん坊の一声に肩をビクつかせ、思わず落としそうになって慌てて自らフォローした。
「血を洗う程度……首を支えて……」
赤ん坊は生まれたてのくせに首をキョロキョロさせ、目を開けて様子を窺っている。
しばらくして落ち着いてきたキルアは、その赤ん坊の顔をじっくり眺めた。
「やった、リンに似てる」
割りと目は小さくない。
まだシワくちゃのお猿さん。
「あぶ」
「気持ちいいか?」
眠そうにアクビをして、暢気に目を閉じている。
不思議な気持ちだ。
こんな事をしている自分……
デートの約束を叶えに来て、まさかこんな事になるとは。
「小せーな……」
……可愛いな……
胸が温かくなる。
得体の知れない物が心を満たして、たまらず涙が溢れた。
「クラピカより先に抱いてやったんだから……俺が父親ってのはどう?」
余程気持ちよかったのか、スヤスヤ眠っている赤ん坊に問い掛けてみた。
それは何の気なしに、冗談で言った言葉だった。
しかし
赤ん坊はキルアの腕に抱かれながら、笑った。
まるで返事を返すように、タイミングよく笑ったのだ。
小さな顔に満面の笑顔。
「………ははっ……」
いい夢でも見ていたのだろう。
聞こえているはずはないのだ。
しかし、キルアにとっては運命を感じた瞬間だった。
今日ここへ来て
この子と最初に出会う事ができた運命。
この子が自分の人生を変えるかも知れない
不思議にも、何故かそう思った。
バスルームから戻り、赤ん坊にオムツと産着を着ける。
リンも着替えを済ませ、キルアに寝室まで運んでもらった。
『クラピカと病院には連絡したよ。ちょうど帰ってくるところだったみたいだから、もうすぐ着くはず』
「そっか」
リンに返事をしながら、キルアは赤ん坊の様子をずっと眺めていた。
スヤスヤと図太く眠り続けている。
『…今日はホントにありがとう、キルア。
独りじゃとても乗り切れなかった』
「いや、楽しかったし。気にすんなよ」
『ふふっ、慌ててたじゃん』
「楽しかった」
二人で顔を見合わせ、クスクス笑い合う。
もしリンと本当の夫婦で、この子が自分の子だったら……
――思わない事もない。
しかし、この子に出会って思った。
こういう運命だったのだ。
あらゆる事が腑に落ちた気がした。
そして、そういう運命の先にある今の自分が
紛れもなく幸せなのだ。
「なぁリン」
『ん?』
「俺結婚やめるわ」
『……え?』
唐突な宣言に、リンは驚いた表情。
『な、何で?普通こういう場面に立ち会ったら、自分も早く結婚したいって思わない?』
尋ねながら戸惑いが隠せないリンに、キルアは笑って答えた。
「俺さ、この子の為に生きるわ」
『へっ!?この子?何で?どうしたの??』
「決めたから」
訳がわからず何度も問い質すリン。
しかし、キルアはそれ以上何も語る事はなく、子供の寝顔を眺めるだけだった。
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