君と共に(リク)
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海岸沿いに車を停めて、いの一番に浜辺へ駆けて行ったリンの後を追う。
「走るな」
『あ!』
このやりとり、妊娠してから一体何度目だ?
そう呆れながら、慌てて立ち止まるリンの後ろ姿を見つめていた。
冬にしては風は優しかった。
凪いだ穏やかな波を嬉しそうに微笑みながら眺めるリンの横顔。
「……寒くないか?」
『うん!平気!
あ~あ、冬も好きだけど早く夏になんないかな~』
「ああ、確かにお前は夏が好きそうだな」
『冬はクリスマスがあるけど夏は夏祭にキャンプでしょ、花火も見れるし海とか川で泳いだりバーベキューしたり…
やっぱり夏が好き!』
子供か。
感覚は小学生より幼いな。
思わず笑いが漏れてしまう。
『あ、なんで笑うの?
クラピカは夏より冬が好きなわけ?』
「私は……」
リンからの問いに、ふっと"あの頃"の事が蘇る。
――奴らに何もかも奪われたあの日は、残暑と涼しい日が代わる代わるの初秋だった。
染めはじめの紅葉を見ると、今でも思い出す。
いや、忘れている時間の方がずっと皆無だったな。
リンと出会うまで……
「……私は春が好きだ。桜を見ると落ち着く」
『春?そっか!私とクラピカの誕生日がある季節だね!』
真冬でも満開なリンの笑顔はまるで向日葵。
どれだけのものを焼き尽くしたか知れない心の炎を、何度も優しく抑えてくれた。
私はずっと、奴らへの憎しみが風化するのを一番に恐れてきた。
リンと出会ってからも、何度となく奴らには苦められて
募るだけ募って
何もかも埋め尽くして
他に何も見えない位に…
それなのに今、私は自分が決めたものと違う道を歩いている。
白い砂浜にポツポツと足跡を残しながら私の前を歩いていくリン。
小さな背中だ。
普通の女性よりずっと力はあるのに華奢なものだ。
風がそよいでリンの髪を揺らし
海を見つめる横顔は口元が小さく微笑んで
キラキラと輝く水面に眩しそうに目を細める。
「リン」
『ん?』
不意に不安に駆られ名前を呼ぶと、いつもと変わらぬ笑顔で私の方を振り向くリン。
たった数歩先にいるのに、儚く遠く感じるその姿。
今、私達を隔てるものは何もないのに
届かない気がするのは何故だ?
「足場が悪い、こちらへ」
そう言って手を延ばすと、リンは満面の笑顔で首を横に振った。
『大丈夫!気分いいから歩かせて』
擦り抜けていく気がするのは何故だ?
今でも夢に見るんだ。
全てを燃やし尽くしたあの炎の夢を。
馬のいななき…闇に映える仲間達の対の緋色…奴らの高笑いと皆の叫び………
だが、お前と出会ってからは随分減った。
眠れるようになった。
温かい夜が増えた。
お前を抱いていればそれだけで安心できた。
だが私とお前を繋ぐ大切な存在が、今度はお前を奪っていくかも知れない。
お前がいなくなるかも知れない。
それは昔見たそれよりも、更にずっと深い地獄―――
「リン!」
行くな……
行くな!!
私は砂を蹴散らしながら走った。
走って、小さなリンの背中を思いきり抱きしめた。
『わっ、クラピカ?』
「行くな…私から離れるな」
『え!?どこにも行かないよ、どうしたの?』
「私にはもう……何もない!お前以外、他に何もないんだ!!」
幸せはいつも遠く遠くへと流されてゆく。
二度と私の手の届かない所へと。
リンも
いなくなってしまうのか?
『クラピカ、私はここにいるよ。大丈夫だよ』
振り返り、私を見上げて微笑むリン。
安心させるようにその瞳は真っ直ぐ穏やかに私を見つめる。
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