師匠目線の過去話
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俺の見立てではリンはかなり資質のある方だと思っていたが、念修行を始めてみて、教える俺の方が苦労した。
資質はあるが無器用。
武術を仕込む時から知ってはいたが片寄りもひどい。
蹴りしかうまくない。
しかも甘え上手。
俺の方が何度も誘惑に負けそうになった。
目に入れても痛くない程可愛い子供。
だが、こいつは体に一生外す事のできないお宝を秘めている。
何かあった時───
それを考えると、俺は時として鬼にもなり、リンを鍛えた。
そしてある壁を越えると、リンは箍が外れたように急激に成長した。
念修行を始めて一年半…
リンも15になり、とうとう俺はリンを手放す事にした。
可愛い子には旅をさせろって言葉。
めっちゃ辛いけど実行してやるぜ。
貯めてた金も残り少なくなってきたとこだし。
今ある金は全部リンに持たせて、俺は一からスタートだ。
…そう思っていた。
『師匠に育ててもらえて楽しかった!』
…リンが最後に言った言葉。
本当に心に染みた。
俺、リンをこんなにいい子に育てる事ができたんだな~なんて。
自己満足な上に親馬鹿だけど。
走り去って行くリンの後ろ姿を見えなくなるまで見送った。
断腸の思いとはこの事だ。
俺は何十年ぶりかに涙を流して、初めてそう思った。
暫くその場に茫然と立ち尽くしたまま、動けなかった。
その時ふと、誰かの気配を感じて振り向くと、そこにいたのは15年前に一緒に盗賊していた仲間だった。
「よ、久しぶりだなアルト。探したんだぜ」
そいつは本当に嬉しそうな顔をして俺に近付いて来た。
「なあ、お前のお陰で昔はよくいい思いをしたもんだ。またやろうぜ。
あの頃みたいにさ。
楽しくスリルに生きようぜ!」
俺はそいつを見てもそいつの話を聞いても全く心が動かず、ただ首を横に振った。
「すまん。俺はもう盗賊はやらない。
今となっちゃ金もなくなったが、残った端金で良ければ全部やる。
だから帰ってくれ」
自分なりに丁寧に断ったつもりだった。
そいつも少し沈んだ顔をしたが、すぐに納得した。
「…そうか。残念だ。
まぁ、昔はお前に助けられて何度も命拾いしたしな…。
しつこくは言わん」
案外あっさり引いてくれた事にホッとして、家の中に金を取りに入ろうとした。
奴に背中を向けた。
―──油断、したんだ。
一瞬、確かに身の毛がよだつ程の嫌なオーラを感じたのに…
反応した時には遅かった。
でけえ発砲の音と共に、俺の体を凄い威力で巨大な弾が貫通した。
その瞬間
俺の頭の中にフラッシュバックするかのように浮かんできたもの………
それは色々あった激動の34年間の人生の中で
リンと過ごした15年間だけだった。
あの笑顔と共に過ごした日々だけが、走馬灯のように目の前を巡って
消えた。
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