運命
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グレスの声に、リンは踵を返して甲板に出ると、既に数百メートル離れていた、島の方を見た。
『……あれは……』
リンは目を疑った。
確かに島には人どころか虫の一匹もいなかった。
しかし視線の先には大勢の人がいて、皆でこちらに手を振っている。
あれは……もしかして……
「わあああ!!お母さん!!お父さん!!」
グレスは甲板から身を乗り出し、海に飛び込もうとしてクラピカに掴まれた。
「お母さん!!お父さん!!」
泣きながら叫ぶグレス。
リンは奇跡のようなその光景に言葉を失っていた。
皆の中で一人だけ、手を振っていない女性がいる。
彼女の優しい微笑みが、何故かこの距離ではっきりと見えるのだ。
『…おかあ…さん?』
届くはずもない小さな声でそっと呼んでみると、その瞬間、彼女は確かに笑って頷いた。
『お母さん…お母さん!』
リンもグレスの隣りで身を乗り出し、抱いているラタルの顔を見せるようにして手を振った。
『私の子供だよ!!私が産んだんだよ!!大好きな人と結婚して、この子を授かったの!!
ありがとう、お母さん!私を産んでくれて、ありがとう!!』
聞こえるように、届くように、ありったけの声を振り絞ってリンは叫んだ。
お母さん!!
貴女が私を産んでくれたから、私は今幸せだよ!
クラピカとも会えたの!
ラタルも生まれたの!
一緒にはいられなかったけど、ずっと感謝してるから…!
『ありがとう!!ありがとう、お母さん、お父さん!!』
島はどんどん遠ざかる。
「お母さん!お父さん…!」
グレスはその場に崩れ落ち、ただひたすら泣いていた。
皆の姿が見えなくなるくらいにまで離れると、突然、空からキラキラと星のような物が降りそそぎ、島全体が見えなくなる程に輝きに包まれた。
そして、星がまた吸い込まれるように空へ還っていくと、海の上からはジュエリストの島が忽然と消えてなくなっていた。
「馬鹿な…」
『…うそ…』
全ての終焉を知らせるように、ジュエリストの生きた島は姿を消した。
その歴史の全てを、リンとクラピカの心にのみ託して――――
「ははは…何で思いだせなかったんだ…
村の家も畑もみんなの体も、俺が火を付けて島を出たのに……」
そう、あの島にはもう村の跡さえあるはずもなかった
全ては皆が用意してくれた、幻だったんだ…
リンさんの為に─────
『さようなら、みんな…』
リンはスカートのポケットに手を入れ、自分の胸から取れてしまったあの石を取り出した。
出産後にグレスから返されたこの " リンクル・ダーク "。
ルビーが解放され、元の黒い石になった。
しかし、その姿は輝きなど放つ事はなく、ただの石ころのようだ。
" ようやく百代の努めを終えた
我は疲れた……
もうこの美しい海で、ゆっくり眠らせて欲しい…… "
まるで、そう言っているように思えた。
リンはクスッと笑いをこぼし、リンクル・ダークをしっかりと胸に抱いた。
『今までありがとう。ゆっくり休んでね。バイバイ、私の胸の石…』
リンは手摺の向こうに手を延ばし、拳を開いてリンクル・ダークを海に落とした。
呪いなど何も知らずに、17年間一緒に生きた胸の石。
リンの頬には、静かに涙が伝っていた。
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