ベールの向こうー前編ー
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ラフラスはルビーの髪に沢山付いた枯れ葉を払い、手を引いて立ち上がらせた。
「この森は危ない。知らないのか?」
「知ってる。夜になったら魔獣が出ると聞いた。でもそんなの噂でしょう?」
ルビーが余裕綽々の笑みでそう口にした時、ラフラスは腰に差していた剣を抜き、風を切ってルビーの顔の真横を突いた。
目にも止まらぬ突然の暴挙に、ルビーの心臓は止まりそうになる。
ギャアッ………
耳を覆いたくなるような醜い叫び声。
ルビーが振り向くと、ラフラスが突いた先には鳥とは違う恐ろしい形相の、翼をつけた生き物が血を流していた。
「きゃあああああっ!!」
ルビーは堪らず目を瞑り、ラフラスの腕にしがみついた。
「これが魔獣だ。見た事なかったのか」
剣を抜かれ、地面に転がり落ちる魔獣。
「知らない!!怖い!!何です、これは!?」
「ヒトの肉を好む奴だ。狙いをつけられたな。君は美味そうだから」
笑いながら、自分にしがみつくルビーの頭をポンポンと軽く叩いた。
「わかったか?夜じゃなくても魔獣はいくらでも現れる。出口に送るから帰りなさい」
「あ、貴方は怖くないの…!?」
ガクガク震えながら、青い顔でラフラスを見上げるルビー。
「俺はこれが仕事だから。
この先にある湖に行く為にここを通る人達を、魔獣から守るんだ。
町から正式に雇われてる」
ラフラスはルビーの背中を押して出口へといざなう。
「待って待って!!私、外に出るの初めてなの!もう少し色々見たいの!」
「何を言ってるんだ!見ただろ?こんなとこにいたら」
「貴方が守ってくれるでしょう?貴方の側にいる!お願い!」
ラフラスは怪訝とした表情でルビーを見下ろした。
「俺は仕事中なんだ。いいから帰りなさい!」
ルビーの腕を掴んで森の入り口まで引っ張り出した。
「何をするの、無礼よ!」
「好奇心でバカな真似をするな。皆がきっと心配してるぞ、王女様」
「!!私を知ってるの!?」
「この町でそんな立派なドレス来てる女の子はいないよ」
夕方の風を背に受け、微笑みを浮かべるラフラス。
ルビーは、もう既に彼に心を奪われていた。
「あの…私はルビーというの。第四王女よ。
また…来てもいい?ラフラス」
「お父上が許してくれたらな」
まぁ無理だろうけど、と続いた呟きに、ルビーは小さく俯いた。
踵を返し、去っていくラフラスをその日はただ見送る事しかできなかった。
それから幾夜越えただろうか。
毎日毎日、ルビーの心に思い浮かぶのは森で出会ったラフラスの事ばかり。
誰と会っても、何を見ても、何を食べても、ボーッとラフラスの顔ばかり思い出していた。
"会いたい"
ルビーはとうとう気持ちを抑えられなくなり、真夜中に城を抜け出した。
シンと静まった夜の空気。
ルビーは一目散に森を目指した。
いるかいないか等はわからなかった。
寧ろ自信はなかった。
湖に向かう人を守る為にいるのなら、夜中には必要ない。
可能性はほとんどなかった。
だけど、いた。
彼は一人、森の中で風に当たりながら、満ちた月を見上げていた。
「ラフラス!!」
ルビーの叫びを受け、ラフラスは驚いた表情で振り向いた。
「…ルビー…?」
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