君を想う
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幸せな気持ちで互いの温もりに浸っていたその時、クラピカのシャツの胸ポケットで、マナーモードに設定していた携帯が震えた。
クラピカが着信の相手を確認する。
しかし携帯の画面を見て、その表情が固まった。
「…………」
黙り込んで携帯を見つめたまま、鳴り続けるのを取ろうとしない。
『……??誰?』
リンも携帯を覗き込む。
登録していない番号だ。
『取らないの?』
リンの問いかけに、クラピカは少し間を空けてから答えた。
「クロロだ」
『!!…なんで…?』
ギョッとするリンをよそに、クラピカは通話ボタンを押した。
『え、ちょっ』
「もしもし」
黒いコンタクトをしていない瞳は、相手の声を聞いても赤く染まる事はなかった。
いつもよりも冷静で、知らなければ電話の相手が蜘蛛の頭だとは誰も思わないだろう。
「…ヒソカから聞いた。リンは無事に子供を産んだそうだな」
「ああ。ヒソカが何故知っている?」
「お前の仲間の少年に会ったらしい」
「…なるほど」
普通に会話を続けているクラピカとクロロ。
隣りではリンがハラハラとしながら聞いている。
「リンは元気か?それだけ聞きたくて電話した。安心しろ、もう二度と掛けない」
「…元気だ。子供と二人」
「…そうか」
クロロの安堵した声を聞いたクラピカは、迷った末に、意を決してクロロに尋ねた。
「今、リンが隣りにいる。これが最後の機会だ。代わってやってもいいが、どうする?」
予想外の言葉に、クロロは返答を詰まらせた。
リンに至っては、驚きを通り越して放心状態。
目を点にして口をあんぐり開け、間抜けな顔をしている。
"真意は?"
…そう尋ねようとして、クロロは止めた。
これが最後。
クラピカはただ純粋に、自分に最後の情けをかけたのだと思った。
「…代わってくれ」
遠慮なくその厚意を受け取る。
最後だから。
クラピカはリンに携帯を手渡し、部屋の外に出た。
『え…あっ…』
戸惑うリンを残し、パタンと扉が閉まる。
ほんの少し考えた後、リンは渡された携帯を耳にあてた。
『も…もしもし?』
「リンか。よかったな、無事で」
『う、うん…』
そういえばキスの代わりに頼んだ約束、裏切られたんだっけ
ま、結果オーライで今更責める気ないけど
クロロはいつも通りの落ち着いた声だ。
『クラピカに似た男の子だった。ラタルっていうの。すごく可愛いよ』
訊かれもしないのに言ってみる。
「そうか」
クロロは皮肉ひとつ言わない。
『うふふ!見たい?』
「そうだな。一度は見たかった」
『見る機会くらいあるかもよ?』
「どうかな…。俺は今日、この部屋を出る。この国も」
『え……』
いつも通りの落ち着いた声で、穏やかに紡がれた言葉。
覚悟や、けじめや、諦め…そして未来へ進もうと前を向くクロロの横顔が、何故か一瞬頭に浮かんだ。
リンは不意に胸がギュッと痛んだ。
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