式、前夜
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リンがどんな思いでその言葉を言ったのか、それを思うとクラピカは心が締め付けられた。
独りで生きないでね
惨めな思いはさせたくないよ
賑やかな他の家を通りすがりながら、何を思うだろう
子供を抱きながら、誰も待つ事のない暗い家に帰り、何を思うだろう
淋しい想いをして欲しくない
私がいなくなったら絶対いい人を見つけて
私の事は、忘れないで覚えててくれたらそれでいいから
『絶対だよ、クラピカ』
この台詞だけは泣いて言うわけにはいかなかった。
リンはしっかり口の端を上げて、クラピカを見つめた。
「…心配するな。お前が思っているような事にはならない」
クラピカは両手で強くリンの手を握る。
「例えそうなっても、私は再婚などしないよ」
『クラピカ…でもさ』
「お前だけを愛しながら結婚するのは、その相手に失礼だろう」
『…わかんないよ?世の中には素敵な人が沢山いるから…』
「"もしも"があったら、私は残りの人生を子供の為だけに生きる。そしてお前がいつか迎えに来てくれる事だけを待ち望みながら暮らすよ」
………!!
クラピカ………!!
『私…ほんとに…死ぬかも知れないんだよ…?』
遂に我慢の限界を迎え、リンは喉の奥に溜めていた大量の涙を溢れさせた。
死ぬかも知れないんだよ…
こないだから、胸が死ぬほど痛くなるんだよ
怖いよ…
クラピカとさよならするの、嫌だよ!
嗚咽を漏らしながら顔を伏せ、両手で涙を拭うリンを、クラピカは力強く抱き締めた。
「随分、弱気だな。こないだまでの自信はどうした?」
『………』
「私が心配を掛けすぎたな。すまなかった。お前を信じているから、泣かないでくれ」
愛するが故に、無器用な望みを無器用に伝える事しかできない。
クラピカ…私がいなくなったらどうやって生きるんだろう?
クロロに浚われた時は、食事も睡眠もとれなかったって聞いた
"置いて逝くなら、記憶からも消えてくれ"
そう小さく言って俯いた姿が忘れられない
「私に寂しい思いをさせたくないなら、お前がずっと側にいてくれ」
『…うん、そうする』
リンはクラピカの背中に手を回し、腕の中で瞳を閉じた。
───もしも女の子なら
もしも胸に宝石があったら
もしも私に何かあったら
胸の中の不安は大きくなるばかりだった。
「…やめよう。結婚式の前夜にする話ではないな」
クラピカはリンの体を放し、頬に残った涙を拭き去った。
『そうだね…じゃあクラピカの質問の続きして。結婚して後悔ないかとかいうやつ。他に何かある?』
「そうだな。じゃあお前が以前私にした質問を返そう。
お前は私のどこを好きになったのだ?」
クラピカらしからぬ意外な質問。
しかし戸惑う事はなく、リンは待ってましたと即答した。
『全部!!』
「………」
嘘偽りない本音だったが、クラピカにはとてもつまらなそうな顔をされた。
『も、もちろん、細かく色々あるんだよ!?…そうだな~、思いやりがあるところとか、他人の心を深く理解してくれるとことか。
責任感があって、裏切らなくて、優しくて…いつも真っ直ぐ、私に手をさしのべてくれたよね』
愛してくれた
そして私はもっと貴方を愛した
「そんなに綺麗な人間じゃないが…お前の言う通りになれるよう努力する」
『ずっとそのままでいて。たまーに意地悪なとこも、全部大好きだもん!』
言葉では表せないくらい、彼の存在そのものを愛してるから
「明日はよろしく」
『こちらこそよろしくお願いします、旦那様!』
それが二人が過ごした結婚式の前夜だった。
いつの間にか、部屋の中は焼けたケーキの甘い薫りで一杯になっていた。
~続く~