式、前夜
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『話?どんな?』
結婚する前から一緒に暮らし、毎日飽きる事なく色んな会話を交わしてきた二人。
式を明日に控えているとはいえ、生活は今までと何も変わらないし、改めて何か話す事が?
「難しく考えるな。ただケーキが焼けるまでの間でも、ゆっくりお前と語り合いたいと思ったのだ」
まだ少し濡れたままのリンの髪を、鋤くように長い指が撫でる。
『うんっ!語る!』
機嫌良さげにニッコリと笑い、リンはクラピカの方へと向き直った。
いつも以上に優しいクラピカの手が、幸せな気持ちを膨れ上がらせる。
「…リン。私との結婚に後悔はないか?」
『ないっ!』
文句なしの即答。
勿論、「ある」なんて答えは予想してなかったが。
「結婚、してよかったか?」
『うん、当たり前!』
「平穏な生活はさせてやれていないが、不満はないか?」
『ない!クラピカがいればいい!』
迷わず答えるリン。
「病める時も健やかなる時も、共に助けあい、愛しあう事…」
誓えるか?
…ああ
確かこの言葉には続きがあったな
そう、確か…
"死が二人を分かつまで"
死が、二人を…
それは遠い未来のはずだった。
同じように年を重ね、時代を見送り、その時が来たら流れに身を任せ、生涯を終える。
──そうなるはずだった。
『誓うよ』
リンは未来を信じて、そう答えた。
『でも、一個だけ約束して欲しい』
「なんだ?」
思いがけずリンの方から願い出があった。
『…この言葉の続きに…』
いつになく小さな声は、微かに揺れて言い淀んだ。
「…死が二人を分かつまで…か」
『………』
「約束して欲しい事とは何だ?」
リンは口をつぐみ、視線を手元に落とした。
「リン」
覚悟が決まらないらしく、いつまで経っても口を開かない。
クラピカはリンの頬に手を添えて自分の方を向かせた。
「大丈夫だ。お前が死ぬ時は、私も死ぬ時だ」
迷いに揺れる瞳を、包み込みように見つめるクラピカ。
───出た言葉は本心だった。
あの時、仲間を失い自分だけ授かった先の人生を捨ててでも、この娘が大事だった。
彼女が望むなら────
そう思った。
『……本当ならそれがいい……でも………』
……断られる事もわかっていた。
何故なら────
二人ともいなくなれば、誰がこの子を?
『…だからね、クラピカ…私がもしも…』
ああ…言いたくない…続きが出ない…
込みあげる何かが喉を塞ぐ。
『私にこの先…万が一、が、あったら…』
今伝えておかなきゃいけないんだ
私の思いを
…言え、ほら…!
『…クラピカは、絶対…再婚してね』
必死でぎこちない笑顔を作り、リンはようやく最後まで言い切った。
クラピカは予想していたように、顔色ひとつ変えなかった。
…本当は嫌だけど
クラピカが他の誰かを愛するなんて本当に辛いけど
残されたクラピカが、たった一人で仕事も家事も育児もこなす姿を想像すると、胸が張り裂けそうになる
私はクラピカの幸せを一番に考えたい
原点に戻ってみようと思うの
・