失うあの日
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ヒソカも珍しく真面目な顔で、その様子を見守っていた。
リンをクロロに取られるのは気に食わないが、そのうちクロロを倒して奪い取ればいい―――
その位の気持ちなのだ。
クロロはギュッとリンの感触を噛み締めた後、その記憶を操る念遣いに向かって作業を始めるよう指示した。
『…やだ…やだやだ…来ないで…私クロロの言うこと聞く…だからそれだけは止めて!
何でもする…旅、ついてく…だから…やだよ!!』
首を必死に横に振り、恐怖に顔を歪めながらクロロに懇願する。
『お願い!!お願いします!!嫌だよ!!』
なかなか自由に動かせない体を、それでも尚、頑張って土下座する。
忘れたくない…忘れるなんて無理…!!
次にもしクラピカに会ったら……
私、「あなた誰?」って言うの?
そんなの、私じゃない!
それはもう、私じゃないんだよ!!
クロロに命じられた記憶操作の念遣いが、一歩一歩、リンに近付いて来た。
壁に背をつき、後退りもできないリンに、その者は両手をかざす。
リンはふっと意識を失った。
その場に崩れ落ち、頬に涙を伝わせたまま眠っている。
「…このお嬢さんに新しく埋め込む記憶、どうします?」
年を重ねてしゃがれた女性の声。
記憶操作の念遣いがクロロに尋ねる。
「色々考えてもみたが、新しい記憶は入れなくていい。とりあえず鎖野郎…"クラピカ"の記憶だけ抜いてくれ」
そして───
念遣いはリンの額に触れ、空いた手で自分の額を覆って記憶をリンクさせる。
リンの記憶を覗き込み、あらゆる思い出の中から愛する"クラピカ"の記憶を見つけた。
念遣いはそのクラピカに関わる全ての記憶を引っ張り出し、用意して来た小箱に封じ込めるのだ。
最後に念の札を張り、任務完了。
そんな流れだ。
慣れた様子で作業を進めようとする念遣い。
しかし記憶を見つけたまではよかったが、それを引っ張り出す事がなかなかできない。
「?うまく出て来ない…」
かなり苦戦しているようだ。
それはリンの想いの強さ…
リンの体も心も、クラピカを失う事を拒んでいるのだ。
無理に出せばリンは精神が空に近い状態になってしまう───
念遣いはそう悟った。
だが、先払いでクロロから莫大な報酬を受け取っていた為、今更「無理でした」なんて言えるはずもない。
見ず知らずの娘の事など、気にしている場合ではない。
ありったけの力を込め、リンの記憶を引っ張り出した。
そして無理矢理小さな箱へと押し込め、急いで念の札を貼った。
汗だくで息を切らせる念遣い。
何とか無事に作業を終えた。
「ご苦労だったな。また何かあれば頼む」
クロロは改めて念遣いの手に報酬を握らせ、受け取った彼女は満足そうに帰って行った。
リンの記憶を閉じ込めた箱は、クロロが懐にしまった。
ヒソカも全てを見届けると、あっさりと消えていってしまった。
誰もいない部屋に、二人きり。
安らかに眠るリンに、クロロは柔らかく唇を落とした。
その瞬間、リンがパッチリ目を開けた。
クロロは驚いて触れた唇を離した。
暫くボーッと天井を見つめた後、クロロを見つけてリンはゆっくり体を起こす。
そして黙ったまま、また暫くボーッとしている。
「…リン?」
第一声が来るのを待ちきれず、クロロは声をかけた。
すると、リンは虚ろな瞳で小首を傾け、小さく応えた。
『…くろろ…?』
その声に、クロロはホッと笑顔になる。
しかし次の瞬間、リンの瞳からぶわっと大粒の涙が溢れ、とめどなく流れ出した。
悲痛な声を上げ、床に突っ伏し、泣き叫ぶリン。
クロロは驚いてその場に立ち尽くす。
「…リン、どうした?」
それだけ訊くのが精一杯だった。
リンはゆっくり顔を上げ、涙に濡れた瞳でクロロを見上げた。
『…わかん…ない…胸……痛いよ…』
死にそうな程の喪失感
その正体はわからない
でも、確実に昨日までとは違う自分──
掻きむしられたような胸の痛み───
リンはその場所で、ひたすら泣き続けた。
クロロはそんなリンの姿に何もできず
ただ黙って見下ろすしかなかった。
~続く~