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翌日、ホテルをチェックアウトして外へ出ると、グレスが昨日の服装のまま、階段の所で待っていた。
座りこんで眠っている。
『クラピカ、ごめん。向かいにある公園のとこで待ってて!』
クラピカは状況を理解して頷き、先に歩いて行った。
リンは眠りこけているグレスの頬を軽く叩いた。
『おいストーカー!起きて。迷惑でしょ、こんなとこにいちゃあさ!』
グレスはハッと飛び起き、リンを認識すると、大袈裟なくらい深く頭を下げて挨拶した。
「すすすすみません!!昨日は…気を悪くしてしまったみたいで……」
『あ、ううん…こっちこそ…言い過ぎてごめん。グレスも一人で凄く凄く大変だったんだよね…私、自分の事ばっか考えて…。
あんたの16年間を否定した。ホントごめん』
その言葉に、グレスはホッとした表情を浮かべ、首を横に振った。
『…でも私、やっぱりあんたの助けにはなれないよ。私は女神なんかじゃない。
何もできない、何も持たない、何の力もない、ただの女の子だよ』
リンはグレスを見つめ、申し訳なさそうな声で言った。
覚悟していたのか、グレスは少し悲しげに微笑みながら頷いた。
「はい…本当に、重たいものを全て貴方に任せようと…俺は酷い奴ですね。
自分の人生まで丸ごと抱えてもらおうとしていました。
貴方は貴方の道を行くべきです。本当に…すみませんでした」
また頭を下げるグレスに、リンはふいに泣きそうになったが、グッと堪えて口の端を上げた。
『あんた、スリなんかしないで、まっとうに生きてね。私、離れててもいつも想ってるから。世界に一人の…仲間だからね』
そう言うと、リンは自分の財布の中身を全部グレスに渡した。
グレスは慌てて返そうとしたが、リンは受け取らなかった。
満面の笑顔で"お互い頑張ろうね!"と励まして、潔くグレスに背を向けた。
さよならは言わない。
『…あっ、待てよ?そういえば…』
ふとある疑問を思い出し、リンはグレスの方へと振り返った。
『あのさ、私の誕生日って知ってる?』
師匠の話によると、見つけた時には生まれて一月も経たない位の赤ん坊で、多分この頃だろうという日に毎年お祝いしていた。
「ええ、覚えてますよ!里の皆で盛大なお祝いをしましたから。3月20日です!」
『――――!!』
それじゃあお元気で、と笑顔で手を振り、グレスは去って行った。
『3月20日…』
グレスは気付いてないようだった。
『それって…今日じゃん!』
何とも言えないその因果に、リンは不思議な運命を感じた。
走ってクラピカを追い掛け、今度は後ろから飛びついた。
『クラピカ~!!』
「わっと…また転ぶだろう!」
クラピカのしかめっ面も酷く愛おしい。
人生で初めてちゃんと祝う誕生日を、クラピカと一緒に過ごせる幸せ…
『おめでとうって言って!』
「?何の事だ?」
『今日、私の誕生日なの!!』
お父さん、お母さん、一族のみんな、師匠……
私を生み、育んでくれてありがとう
生まれた時に、盛大にお祝いしてくれたって聞いて、すごく嬉しかったよ
今更関係ないなんて言ってごめんね
今は全ての運命に感謝してる…
全ての流れが私とクラピカを出会わせた
ありがとう…
ありがとう…
私は、生まれてきてよかった…
またきっと会いに行くね
師匠の作ってくれた皆のお墓へ────
クラピカと一緒にね!
~続く~