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飲み物を買いに行ったきり、いつまで経っても戻って来ないリンに、また何かトラブルでも起こしていないかと、不安を抱えて待つクラピカ。
ベンチから立ち上がり、辺りを見渡してリンを探す。
すると、売店とは逆の方向から一人トボトボと歩いて来る姿が見えた。
「リン!」
軽く手を挙げて呼ぶと、リンはハッと顔を上げ、駆け寄ってきてクラピカに抱きついた。
「おい…公衆の面前だぞ」
クラピカが低い声で、人目を気にしながら言った。
『うん…ごめん、少しだけ…』
リンの手には飲み物はなかった。
「…今までどこへ行って来たんだ?」
『…少しだけ…』
しがみつく肩が震えている。
何かあったとすぐにわかる。
クラピカはそのまま遊園地を出て、チェックインを済ませてあったホテルに向かった。
ずっと放心状態のリンの手を、クラピカはタクシーの中でもずっと握りしめていた。
ホテルに着き、夕食までの空き時間に散歩へ出る事にした。
リンは口を開く事なく、暗い顔で俯いている。
「…一体、何があった?」
沈黙を破り、クラピカが尋ねた。
リンは立ち止まり、億劫そうに顔を上げる。
酷く悲しい表情で。
さっきあった出来事を全部話したい
心の中をぶちまけたい
言いたいし聞いて欲しい
否定して欲しい
慰めて欲しい
だけど───
クラピカも同胞を失って、死ぬほど辛い思いを抱えて来た
一人ぼっちで、誰もいなくて……
でも私には仲間が存在していた
その仲間が、共に一族を復興しようと言っている
もしその事をクラピカに話したら
その仲間と行って、望むように助けになれと言われそうで
仲間が生き残っていたなんて、こんなに嬉しい事はないじゃないかと
背中を押されそうで
怖くて――――
でも私はクラピカと違って、仲間との思い出など1つもなくて
今更関係ないとまで思ってしまう、物凄く冷たい人間だ
あんな話を聞いた所で、どちらかというと一族には嫌悪感を抱いても、師匠の事を恨む気になんかなれない
ねえ……
私、間違ってる……?
『ねえクラピカ……』
暫くの時を置いて、ようやくリンが口を開いた。
『もしクラピカの同胞が生き残っててさ、一緒に里に帰って復興しようって言われたらどうする?』
二人は海辺の砂浜に座り、沈みゆく太陽を眺めていた。
寂しげなオレンジ色の世界の中、寂しげな顔でリンは尋ねた。
クラピカはその問いに、遠くを見つめて少し考えた後、静かに答えを口にした。
「そうだな…望みを聞いてそうしてやりたいが…私には今、私のかけがえのない生活がある。どこにいても力になるし、離れても仲間はずっと仲間だが…里の復興というのにはもう力になれないかも知れないな」
それはとても正直で、誠実な答えだった。
『そっか…意外だな』
クラピカに向けていた視線を夕日に戻し、リンは呟くように話し始めた。
『…今日あった事…聞いてくれる?』
「もちろん」
そう言ってクラピカは、体ごと真っ直ぐリンの方へ向き直った。
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