100day Challenge
30.三サソ
2024/11/17 23:22SS
「結婚、してくれないか」
開かれた小箱には煌めく宝石が乗った指輪。サソリの目の前に跪いているのは、この里の長。
止めさせなければ、と思うのに……はくはくと動く口は何の言葉も形作れない。
「……固まってしまいましたね」
「む……やはりこのダイヤでは小さかったか……?」
目の前の男……三代目風影の後ろに控えていた羅砂が三代目に小さな声を掛ける。まさかと思うが、小さいってのはその親指の爪ぐらいあるダイヤの事を言ってんのか? というか側近のお前はその暴走機関車を止める努力をしろ。一緒にボケてんじゃねえ。
山ほどある文句を頭の中で連ねる。勿論現実逃避だ。
観衆のざわめく声に、オレは今すぐここから逃げ出したくなった。よりによって何故……白昼堂々、公衆の面前でこんな――プロポーズ染みた真似をされなければならないのか。
自覚してしまったことで、顔に血が集まる。
「あ! サソリのヤツ、照れてますよ」
「ふむ。これは成功と、」
「っざけんな!」
勝手に話を進められそうになり、慌てたオレは……三代目に殴りかかった。
だがそれは敢えなく三代目の磁遁……砂鉄によってガードされてしまう。
「照れ隠しか」
「ンでそうなるんだよ! っつーか何考えてんだ!」
そのまま砂鉄に絡め捕られたオレを横目に、悠々と立ち上がる三代目。そのまま顔を近付けられ、視線を合わせられる。いつにない真剣な三代目の表情に、オレは息を詰まらせた。
「嫌なのか?」
「っ……そうは、言ってねーだろ」
恥ずかしいけど……嫌ではなかった。でもオレは、素直にイエスと言えない。
口許を綻ばせた三代目は、再度口を開いた。
「頼む。オレと、家族になってくれ」
――ああ。アンタにそんな顔で、そんな事を言われたら……もう断れない。
嬉しくて自然に頬が緩む。眦から一筋、雫が落ちた。
「喜んで、――……っ」
三代目風影の、その名を呼ぼうとしたら……唇を塞がれる。
同時に。……背後から歓声が上がる。
そういえば……人が居るんだった……。
「よし、これでオレとサソリは夫ブフォア」
「さ、三代目様ーッ!」
砂鉄の拘束が緩んだその隙に放たれたオレの右ストレートは、今度こそ風影様の頬にクリーンヒットした。