100day Challenge
29.我サソ
2024/11/14 16:02SS
※ サソリ砂上忍if
「サソリさん」
「……バキか。戻ってきたのか」
太陽が完全に沈んだ頃。我愛羅不在の風影の執務室で。目の下に隈を作り、事務作業をこなしていたサソリは顔を上げる。彼に声を掛けたのは、今しがた帰郷したばかりのバキだった。
視察で一時的に里を離れることとなった我愛羅とその
家族であるカンクロウとテマリの次に我愛羅に近しい存在であるサソリは、その五代目風影本人の計らいによって危うく視察先の砂漠に連れて行かれそうになり、オレまでいなくなったら誰が里を護るんだとかなんとか理屈を捏ねてなんとか免れた。只でさえ暑い夏に態々クソ暑い砂漠に行くのなんざ真っ平御免だ、とはサソリの本音である。
それならまだ涼しい屋内で書類仕事でもしていた方がマシだ。だが、これが大変だった。決して少なくはない四人分の仕事をこなすには睡眠時間を削る必要があり、食事も片手間で食べられるものだけ。逆に言えば、それだけで膨大な仕事を捌ききってしまうサソリの手腕には驚かざるを得ない。
兎に角、サソリは心身共に疲れきっていた。
「残りは明日、オレ達でやっておきます。だからサソリさんは今すぐ寝てください」
「あ、あぁ……」
一歳年下の男にそう迫って言われ、顔面の迫力に怯んだサソリは素直に頷く。正直眠気が限界だったのもある。この年になって三徹は流石にきつい。
「そっちに分けてある書類は風影のサインが必要なやつで、後は……」
「明日でいいですから! 早く寝てください!」
半ば追い出されるようにして執務室を出るサソリ。仕事を終えると同時にズキズキ痛み始めた頭を抱えながら、殆ど無意識で帰路を辿る。
漸く到着した家で、サソリはシャワーを浴びる。さっぱりした所で適当な下着とTシャツ、スウェットに身を包み……ベッドに転がり込む。布団にくるまれば、すぐに睡魔がやってくる。
大好きな、落ち着く香りに包まれて……サソリはすぐ、意識を手放した。
「……なんで師匠が我愛羅のベッドで寝てるんじゃん?」
傀儡部隊の部隊長であり、サソリの元で傀儡躁演者としての修行をつけられているカンクロウ。彼は己の師が……実の弟のベッドで眠っていることに疑問を隠せない。
サソリがそうと知らずに歩いていたのは、自宅ではなく……我愛羅の家への道程だった。勝手知ったる恋人の家でシャワーを浴び、恋人の衣服を身に纏い、恋人の匂いが残るベッドに潜り込んで眠っていた。
「バカ、察しろ」
何となくそれに勘付いたテマリはカンクロウを肘で小突くが、察しの悪い弟は未だに首を捻っている。我愛羅とサソリがそういう仲だということは知っている癖に、何故そこまで考えが至らないのか……。
この姉兄は、帰るまでが視察だ、という事で護衛として我愛羅を家まで送る為に家まで来ていた。自宅に着いてすぐ風呂場に直行した我愛羅を見届けた後、彼の自室に見知った気配がすると思えばこれだ。
「テマリ、カンクロウ……何をしている」
「いや、それがさぁ……」
そこへ、シャワーを浴び終えた彼らの末弟が戻ってきた。ベッドで健やかな寝息を立てているサソリを見て、頬を緩める我愛羅。
彼は勿論、家に居る恋人の気配に気付いていた。慣れ親しんだそのチャクラを感じ取ることなど、我愛羅にとっては容易いことだった。
「……帰るぞ、カンクロウ」
「え、でも師匠は?」
「空気読みな」
サソリを連れて帰らなくていいのか、と言いたげなカンクロウをテマリはもう一度小突いた(今度は鳩尾に入った)。痛がる弟の腕を掴み、部屋を出るため我愛羅に背を向ける。引き摺られていくカンクロウは未だ納得していないようだった。ちなみにここまでの会話は全て、小声で行われている。
「おやすみ、我愛羅」
「お、おやすみじゃん」
「あぁ、おやすみ」
最後に三人分の挨拶が交わされ、部屋の扉が音を立てて閉まる。テマリとカンクロウ、どちらも合鍵を持っているため、戸締まりの心配はない。
サソリの隣に寝転んだ我愛羅は、自分のものと似た色彩の鮮やかな髪を撫でる。すると手にすり寄ってきたサソリ。その可愛らしさに心臓を高鳴らせながら、年上の恋人を抱き締める。
やがて愛おしい温もりに包まれた我愛羅も、サソリと同じように夢の世界へと旅立っていった。
11/14 いい上司の日