転生学パロ TS/サク♂サソ
目の前でふわりと桜色の髪が揺れた。その色に目を奪われる。
既視感を覚えて呟いた呼び名は――「小娘」。
瞬間、その翡翠色の目が見開かれる。……後悔してももう遅かった。
「オイ……離れろ」
「イヤ!!!」
昼休みの廊下は生徒でごった返している。そのド真ん中でいきなり男子生徒が他の男子生徒に抱き着いたとあれば、注目の的となることは必至だ。
オレは心底うんざりしながら、一向に離れようとしない
オレには前世の記憶とやらがある。忍として、傀儡師として生きた記憶が残っている。ただそればオレだけらしく、今世でババアや両親、暁のメンバー達に出会う度にそれとなく聞いてみたが誰一人として前世を覚えている奴はいなかった。だからオレはてっきり、自分以外に記憶持ちはいないものだと思っていたが……まさかコイツが覚えているとはな。
しかも何の因果か――性別が変わっている。細いが筋肉質な腕に、オレより高い身長が腹立たしい。
「サクラ!? 何してるんだってばよ」
驚いた顔して駆け寄ってくるのは……確か九尾のガキだ。記憶通りの金髪と、記憶より高いところにある顔を見上げながら、小娘の背中越しに声を掛ける。
「ちょうど良かった、コイツをどうにか、」
「ごめんナルト! 次の授業サボるから!」
「は、っ!?」
「え!? ちょ――」
小娘が勢いよく顔を上げたと思ったら、次にオレを襲ったのは浮遊感。あまりに突然のことで、頭がついていかない。
後ろで九尾のガキが驚いた声を上げていたが、小娘はそれを無視して走り出す。
自分が抱き上げられていると気づいたのは、それからすぐのことだった。
「オイ……オイっ! やめろ!」
オレの抗議の声は無視され、小娘は廊下を走り、階段を駆け上がる。片腕でオレを抱きかかえたままもう一方の手でドアノブを捻り、扉を開く。到着したのは、屋上だった。そのまま塔屋の裏へと進んでいこうとする小娘に苛立った声を投げつける。
「いい加減降ろせ!」
「あ……ゴメンゴメン」
小娘の腕の拘束が弛んだ隙に地面へと逃げる。それでも左手首は掴まれたままだ。痛む程ではないが強い力だった。身長差や体格差を考慮してもそこらの男より力がある気がするのは前世の影響か。
「で……何の用だ」
「折角だから、もっと話したくて。ホラ、こっち」
「……ハァ」
小娘に腕を引かれ、隣に座るよう誘導される。抵抗しても無駄だと悟ったオレは、小娘から拳二つ分ほど空けた場所に胡座をかいて座った。やり場のない思いを溜め息一つに乗せて大きく吐き出す。コイツのせいで、オレまで授業をサボる羽目になった事に対する怒りが少なからずあった。
「放課後でいいだろ」
「だって、絶対逃げると思って」
「……」
小娘から目を反らす。図星だったからだ。出来れば関わりたくない、というのが本音だった。
ただ……それはコイツも同じかと思っていたが。
「でも……オレだけじゃなくてよかった」
ぽつりと零されたのは妙に柔らかな声。思わず小娘の方を向けば、奴は安堵したような顔で笑っていて……オレは呆気に取られてしまった。
初めて見る表情だった。敵として一度戦闘しただけなのだからそれも当然だが、記憶にある小娘の表情はどれも眉を顰めた険しいものばかりだった。
だから驚いたという……そうだ。それだけの話だ。
「サスケくんやナルトは、何も覚えてないみたいだし」
「あ、ぁ……オレの周りの奴もそうだな」
反応が遅れてしまったが、小娘は特に気にした様子もない。気取られなかったことに安堵した。
だが確かに……“暁”のメンバー達に出会っても、誰一人としてオレを知っている奴はいなかった。前世を識る者はオレ以外に居ない、自分はそういうモンだと思って生きてきたが……どこか寂しげな声のコイツは違うらしい。
「ま……そんなに気にすんなよ。前世は前世だ」
「簡単に言ってくれるよな……」
柄にもなく慰めるような台詞を吐いてしまった。オレは嘗てコイツの敵だったというのに、それでもあんなに喜んだ小娘を見ていたらつい……。
言葉とは反対に小娘の表情は明るかったから、良しとしよう。
「サソリ、アンタはどこまで覚えてる?」
「全部だ。ただ……印象的な出来事以外は朧気だが」
「オレも同じ。印象的な事って?」
「例えば……そうだな、小娘に十八番ととっておきを壊された事とかな」
「そこ?」
口端でニヤリと笑えば、半眼になる小娘。
「あと小娘って呼ぶな。今のオレは男なんだから」
「あー……確かにそうか。つか、何で男になってんだよ」
「それはオレが一番聞きたい」
改めて小娘……いや、サクラを眺める。顔の造作は大きく変わっていないようだが、輪郭などの男らしさが増した気はする。髪も少し短くなったか。骨格や身長は完全に男のそれだ。
というか背が高くねーか。以前はオレより低かったはずだが、今は180cm近くありそうだ。
「あと、オレの方が歳上だから」
「は?」
「サソリは一年生だろ? オレは三年」
「……マジかよ」
驚きから目を瞠る。確かに体がデカいとは思っていたが、二歳も年上だとは思わなかった。前世の年齢に意識が引っ張られていたのもあるだろう。
「だから先輩って呼んで」
にこやかな笑顔に顔がひきつる。
中途半端ですみません