短編集

 


 砂隠れの里、その最深部――。
 所謂“拷問部屋”にて我愛羅は、椅子に座らされ拘束された一人の男と対峙していた。

「いい加減吐いたらどうだ」
「誰が言うかよ」

 鮮やかな赤い色の髪や白皙の美貌は薄汚れ、唇は切れて、見える範囲の素肌には無数の傷や痣があった。それでも男――サソリの目はまだ死んでいなかった。
 我愛羅は目の前の男を注視しながら腕を組んだ。暁からの襲撃があったのは今から半月ほど前。己と里を襲ったデイダラからの攻撃を何とか捌き切った我愛羅は、一時は二人を捕縛。デイダラには逃げられてしまったが、砂隠れの抜け忍であり、三代目風影を殺害した張本人……赤砂のサソリを捕らえる事に成功した。
 謎に包まれたS級犯罪者集団、暁の情報を何とか吐かせようと、暗部の拷問・尋問部隊が頑張っているらしいが……それらしい成果は未だ手に入っていない。人形のようなうつくしい見た目に反して強情な男だ、というのが我愛羅の感想だった。

「暁に未練や義理でもあるのか。話さない理由は何だ?」
「……は。別に義理立てしてるつもりはねぇ」

 サソリのギラついた瞳が我愛羅を映した。その光の強さに我愛羅の背筋が震える。

「この里が……“風影”が嫌いだから。ただそれだけだ」

 せせら笑うサソリ。その目に他の色を認めた我愛羅は、眉を寄せ、一歩踏み出した。いきなり近付いた我愛羅に、サソリは警戒の色を濃くするが……抵抗はできない。我愛羅はその白い肩を掴み、顔を寄せて呟く。

「……気に食わない」
「い゙ッ――!」

 サソリは思わず声を上げる。我愛羅が思い切り首筋に噛み付いたからだ。犬歯が皮膚を食い破る痛みに顔を顰め、奥歯を噛み締めるサソリ。
 ややあって我愛羅が顔を上げると、くっきりと付いた歯型に血が滲んでいた。それに満足気に目を細める。

「テメェ……っ、なに……」
「お前の前に居るのはオレだ。オレを見ろ……サソリ」

 動揺しているサソリ。だが我愛羅には、思考する隙を与えてやる気は更々無かった。
 我愛羅は、サソリの十八番“ヒルコ”からサソリがその姿を現した時から、ずっと自分の物にしたいと考えていた。
 美しいという言葉が陳腐に思えるほど美しいその容姿を傷つけたくなるし、余裕気な表情を浮かべていればそれを歪ませたくなるし、気の強さと口の悪さは屈服させたくなる。“友”と拳を交えて以降鳴りを潜めていた、我愛羅の内の残虐性を久し振りに疼かせた男。
 だから気に食わなかった。我愛羅の目の前に居ながら、別の人間のことを考えている素振りを見せたサソリが。だから傷つけた。無理矢理にでも自分に目を向けさせる為に。
 我愛羅は先程自分で付けた傷口を舐める。舌に付着するのは只の血液、だがサソリの物だと思うとどんな蜜よりも甘く感じた。




 
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