短編集

 


「随分と熱心なことね」
「……大蛇丸か」

 断りどころか音もなく侵入してきた男、大蛇丸。サソリは彼を舌打ちで迎える。
 ここは暁のアジト内にあるサソリの部屋。
 「任務が入ればすぐ向かって貰う、それまで二週間ほどアジトで待機していろ」とリーダーから命令を下されたのが八日前。依頼者との話が中々纏まらないのか、一向に声は掛からなかった。
 このアジトは幾つかある内の一つで、滅多に使われる事もないため私物を置いているメンバーはほぼいない。その為、サソリは傀儡の調整が、大蛇丸は趣味の実験が中々捗らず……二人は時間を持て余していた。
 退屈しのぎにもう何度目かもわからない自分自身のメンテナンスを終えたサソリは、工具を片付けようとしていたところだった。いつも羽織っている暁のマントを脱いだ姿……つまり半裸のまま。大蛇丸はその姿を見て目を細める。
 警戒心を顕にするサソリを余所に、大蛇丸は一歩二歩と踏み出し、サソリに近付く。

「そんなに警戒しなくてもいいじゃない。寂しいわ」
「ほざけ」

 一応は相方である男の言葉を一蹴するサソリ。眉根に寄せられた皺が一層濃くなる。
 大蛇丸はそんなサソリを余所に、さらに一歩踏み出す。その踵が地面に着く直前、両の指からチャクラ糸を伸ばそうとしたサソリだが……大蛇丸の方が一枚上手だった。

「潜影蛇手!」
「チ……ッ!」

 大蛇丸の服の袖口から、勢いよく蛇が飛び出した。それはサソリの胴を縛り、地に膝を着かせる。男はその赤髪を振り乱し、身を捩って逃れようとするが……徒労に終わった。

「離せ……っ何のつもりだ!」
「暇潰しよ。気になっていたのよね……その部位」

 高い位置にある大蛇丸の顔を睨み付けるサソリ。だが大蛇丸はそんな男を意にも介さず、袂からごく細い針を取り出す。そしてその鋭い銀色の先端を、抗う術のないサソリの胸――“核”に突き刺した。

「ぎ、ッ……!」

 唯一の弱点を貫かれ、熱く灼けるような痛みがサソリを襲う。それはまるで……心臓に針を刺されているような。

「アラ……面白い。神経は残っているのね」
「やめ……ろッ……」

 口端を吊り上げた大蛇丸。刺した針に少しずつ力を込め、僅かずつだが針先を“核”に沈めてゆく。サソリはその度に身悶え、苦悶の表情を浮かべた。
 人傀儡であるサソリ。痛覚のない身体を持つが……生身の核だけは違う。“核”は、チャクラを生み出しその身体を動かす為の生命保持器官の塊だ。人傀儡“蠍”において、一番重要で繊細な部分だった。

「っぐ、ぅ……!」
「……ここまでかしら」

 サソリの意識が遠のきかけたところで、大蛇丸はやっと蹂躙を止めた。“核”に半分ほど刺された針から、僅かな血液が伝って床を汚す。
 サソリはこうべを垂れ、完全に膝を曲げて臀部を踵に付けて座り込んでいた。繰り返される荒い息。

「そうね……暫くは貴方を研究する事にしようかしら」

 大蛇丸は“核”から針を抜き取る。そして嗤いながらサソリの髪を掴み、上を向かせた。
 サソリの今までにない表情……痛み苦しみに大きく顔を歪めているその姿が、大蛇丸の加虐心を疼かせた。丁度いい暇潰しができたことに、大蛇丸は悦び、舌舐りを隠そうともしない。

「ックソ……が……」

(蛇毒に侵された蠍、なんて。洒落にもならねえ……)

 朦朧とした意識の中、何とか抗おうとするサソリ。だが、明滅する視界は段々と黒に染まってゆく。
 そうしてサソリは――気を失った。グラ、と倒れ込みそうになった身体を受け止めたのは大蛇丸。口許に笑みを浮かべた男は、人傀儡を抱いて部屋から出た。
 音を立ててドアが閉まる。後に残ったのは、静寂のみだった。





 10/27 大蛇丸誕


 
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