短編集

 


 ある時は。

「良かったら食べてくれ」
「……なんだよこの高そーな菓子の山は」
「お前が好きそうなものを、と考えていたら買いすぎてしまって……」
「程度ってモンがあんだろ……うん」


 またある時は。

「来週の日曜、空いてるか?」
「えーっと……確か何の予定もなかった筈だ、うん」
「ココに行かないか」
「美術館……の、チケット?」
「父が貰ったらしいんだが、行く時間がないらしくて……譲って貰ったんだ」
「……イイけど」
「本当か? よかった……」
「っ、おま」
「じゃあ、楽しみにしてる」

 ……。うん。



「デイダラ? どうしたんだ?」

 来る日曜日。美術館でのデート帰り。
 優しい声音で、壁際に追い詰めたイタチが首を傾げる。自分より高い所にあるその顔だけど……相変わらず、視線は合わない。
 何かにつけて贈り物をくれたり、逢瀬の約束をするのも向こうから。今日の美術館だって、オイラが前に見たいと言った展示のものだ。コイツは絶対興味ないのに、自分から誘ってくれて、付き合ってくれて……。
 なのにイタチは、オイラを見ようとしない。
 今回だけじゃない。前から何度かあったけど、最近は特に酷い気がする。だから我慢できずに、詰め寄ってしまった。
 今だって、ほら。すぐに目を反らされてしまう。

「オイラを見ろよ……っ」

 口から零れたのは紛れもない本心。ああ、胸が痛い。
 泣きたくなんてないのに、コイツにそんな姿見せたくないのに……眦にじわりと涙が溜まる。

「待……っ、違うんだ」
「なにが違うんだよ……っ、うん」

 焦った声のイタチ、その姿がぼやける。目尻に触れた指が水分を拭って、次にはっきりと見えたイタチは、言いづらそうに口を開いた。

「デイダラがあまりに可愛いから……その、緊張して」
「は、?」
「だから、目を合わせられなかった……」

 思いもよらぬ回答に脱力してしまった。
 照れているのか、頬を染めているイタチ……どうやら本当らしい。
 深く深く、溜め息を吐く。オレもコイツも、本当に……。

「……馬鹿じゃねーの、うん」
「すまない、寂しくさせたな」

 イタチの黒い瞳がオイラを見つめて優しく微笑む。
 その目は、オイラが一番最初に美しさを感じた……写輪眼の赤い瞳じゃない。
 ――それでも。

「やっぱ見るの禁止! うん!」
「ど、どうし、」
「だって、オイラ……ドキドキして、どうしたらいいかわかんなくなる……うん」
「――っ」

 今ならその眼だけじゃなく、全部が愛しいって思える。
 イタチは呆気に取られた、と思ったら……真っ赤になっているであろうオイラの息が止まるぐらい、強く抱き締められた。




 
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