短編集

 


 ※ 学パロ





「誘ってきたのはそっちでしょ?」
「いや……その……」

 しどろもどろになりながら、何とかカカシからの猛攻を避けようとする。だが、躱しても躱しても無駄だという気がするのは何故だろうか。
 セーラー服のスカーフをぎゅっと握る。もしこの服を脱がされでもしたら……いや、そんな事あるわけねぇ。よな……?
 このオレが何故女装して、しかもカカシなんかとラブホテルにいるのか。
 その発端は、仲間内での賭けだった――。



「げ……」
「っしゃあ勝ったァ!」
「やったぜ! うん!」

 私立暁高校、生徒会室。生徒会といえどこの高校のものはそこまで堅苦しいものではない。だからこうして、ゲームに興じることができるわけだ。
 オレは携帯ゲーム機片手に顔を歪める。某レースゲームで馬鹿共に負けたからだ。よりによって飛段にまで……。
 最悪なのはそれだけじゃない。敗者には罰ゲームが課せられることになっている。

「な~にしてもらおっかなぁ、うん」
「んー……サソリにだろ? 普通のじゃつまんねーしな……そうだ! 小南ー!」
「……金ならねぇぞ」

 何やら考え付いたらしい飛段とコソコソ話し合いを始めたデイダラの背中に声を掛ける。明日散髪に行く予定があるから、できるだけ金は使いたくなかった。
 生徒会唯一の女である小南まで呼んで、一体何の作戦会議中なんだか……面倒事じゃなければいいが。
 しかし、悪い予感は的中するもので。

「絶対嫌だ!!」
「ワガママ言うなよ旦那! うん!」
「じゃあテメェが代われよ!」
「負けたのはサソリちゃんだろォ?」
「大人しくしなさい」

 椅子に座らされたと思ったら飛段に羽交い締めにされる。抵抗するが、身長差や体格差のせいで意味を成さない。
 それでも、これだけは嫌だとオレは恨みを乗せて叫ぶ。

「女装してナンパ待ちなんてできるか!!」



「ハァ~~~~~ッ……」

 盛大に溜め息を吐いた。
 あの後、小南に呼ばれた弥彦と長門に丸め込まれ……というか脅され、結局やる羽目になってしまった。
 長門がどこからか持ってきた予備の制服に渋々着替え、小南に軽く化粧を施され、伸びた髪はそれっぽくセットされた。ミニスカ渡されたときは本気でキレそうになったが……渋々履いた。元の顔立ちと身長の低さから、今のオレは女にしか見えない。どこからどう見てもセーラー服姿のJKだ。馬鹿共の太鼓判付きだが、全く嬉しくねぇ。
 足元のハイソックスとローファーから顔を上げ、数十メートル先にある喫茶店のテラス席へ視線を飛ばす。飛段とデイダラが呑気な顔で手を振ってきたので睨み付けてやった。
 駅前の待ち合わせスポットであるこの場所は、ナンパスポットでもあった。だからこうして一人で、誰かが声を掛けてくるのを待っている……フリをしているわけだ。
 この罰ゲームは、声を掛けられるか一時間経てば終了となる。あと四十五分もここに立ってなきゃならねぇと考えると、地獄でしかねえ。
 大きく舌打ちをすれば目の前を流れる人が怯えた声を漏らした。いくらこのオレが可愛いからって(自覚はある)、不機嫌そうな顔で腕を組んでいる女に易々と声を掛ける人間なんているハズが――。

「ねぇ、何してるの?」
「あ?」

 ……いやがった。しかも……コイツは。
 視線を遮るようにオレの前に立ったのは、ブレザー姿の男。ワックスで逆立てた髪型は銀色で、眠たそうな両眼は細められていて。黒いマスクを着けているが顔は整っているだろうことが、目元と鼻梁の高さからわかる。

「は……っ、いや」
「ん?」

 木ノ葉高校のはたけカカシ。つい名前を呼びそうになったがすぐ口を閉じる。
 生徒会会長のコイツとは、交流会やらで何度か顔を合わせたことがある。いけ好かねぇ奴だ……向こうでは天才と持て囃され、結構モテているらしい(カカシと同中だったイタチが言ってた)が、そいつがこんなところでナンパとはな。わざわざしなくたって女の方から寄ってきそうなモンだが……。

「さっきからカワイイ子がいるなーって思って見てたんだよねぇ」
「あ、あぁ……?」

 コイツ、まさかとは思ったが……オレだと気付いてねぇのか。いや、そっちの方が好都合だ。
 ちらりとデイダラ達の方を見る。飛段の奴が頭上で丸を作っているのが見えた。“行け”ってことかよ……声掛けられたら終了の筈だろ。
 若干げんなりするが、同時に悪戯心が沸き上がる。完璧な生徒会長様の弱みを握れるってんなら悪くねぇ……かもな。内心でニヤリとしながらカカシに視線を戻す。

「この後って空いてる?」
「お……じゃなかった、うん。暇だから……アナタと遊びたいなぁ~なんて」

 自分の喋り方を女言葉に修正しながら、ぎこちない笑みを作る。果たして上手くできているのか、当然ながら女のフリなんてしたことねーから分からんが……相手は罠にかかってくれた。

「よかった、じゃあ移動しよっか」
「うん、っ!?」

 返事をした途端に手首を握られ、そのまま引っ張られる。足が縺れそうになって慌てたが、カカシは木にもせず歩みを進める。
 焦って後ろを振り返るも、頼みの綱であるデイダラと飛段は雑踏の向こうにいて見えない。選択を後悔しながらも、オレはカカシに着いていくことしかできなかった。



 そして。
 カカシに引きずられるようにして連れ込まれたのは……ラブホテル。いや、普通はカラオケとかだろ!?
 何度も反抗というか、それとなく他に誘導しようとしたがその度に受け流され、ついにここまで来てしまった。
 流石に二人とも制服姿ならどこかで止められるだろうとタカを括っていたが、連れ込まれた先のホテルが色々と“ユルい”ことで有名で、そのせいで高校生御用達となっているラブホだったので絶望した。
 いや、でもオレは男だし……恥を掻くのは向こうだ。何を怖がる必要がある? 最悪の場合は馬鹿二人に連絡したっていい。だから大丈夫だ……きっと。

「あの、私……」
「怖くなっちゃった?」

 ベッドの壁際でカカシに追い詰められる。逆端に座っていた筈なのに、カカシが距離を詰めて来やがるからその度に避けて……を繰り返していたらついに逃げ場がなくなってしまった。

「大丈夫、優しくするから……ね?」
「っ……やめっ……」

 胸元でスカーフを押さえていた手にカカシの手が重ねられる。腰に回された手は力強く、離れられない。その手が服の中に入ってきて、素肌を撫でられ……ゾク、と背筋に走った悪寒に、思わず身体を跳ねさせてしまう。

「こういうの初めて? ――サソリくん」
「ッな――」

 名前を呼ばれて固まってしまう。その隙にベッドへ押し倒された。
 気付かれていた……! いつからだ、もしかして……最初から知ってて……!?

「流石に何度か会ってるし、わかるよ」
「やめ……っ!」

 カカシが苦笑しながら、動揺するオレの上に跨る。身を捩って抵抗しようとするが、両腕を押さえ付けられてできない。端正な顔が近づいてくる。笑顔なのが逆に怖く思えて、オレは表情を引き攣らせた。

「オレを揶揄おうとしたこと……後悔させてあげる」



「あ゛~~~っ♡♡♡」

 両手首はスカーフで縛られ、着ている制服はそのまま……下着だけを脱がされて。
 大きく開かされた脚、捲り上げられたスカート、後孔には――カカシの陽物を咥え込んでいた。

「っは、キツ……♡ね、初めて?」
「っ、たりめーだ、ろッ♡♡」

 腕を拘束され、暴れようとしても押さえつけられて。性器だけでなく胸や……挙げ句の果てには尻穴まで弄くられ、遂には挿入まで……。
 何度もイかされ、スカートとセーラー服には無数の染みができている。それなのに、オレの性器は未だ勃起していた。セーラー服の下では、散々弄くり回された乳首が尖って、服の布地に擦れる度に快楽を生み出している。自分のものとは思えない淫猥な声が止まらない。全てが初めてなのに、それぐらい気持ち良かった。

「っふ♡♡ア♡も、っやめ♡♡♡」

 カカシの腰がゆっくりとグラインドして、それだけで信じられないぐらいの悦楽が齎される。もうこれ以上感じたくないのに、もうイきたくないのに、身体はどこまでも快感に素直だった。
 サソリは唇を噛み締める。残されたたった一つの希望は、デイダラと飛段だった。あと少し耐えれば……きっと助けが……。

「あの二人なら来ないよ♡」
「は、ッ?」

 言われた意味が分からなかった。どうして……そもそも何故コイツがあの二人のことを知っている?

「ホラ」

 眼前に掲げられたのはスマートフォン。そこには、どこかのファストフード店でハンバーガーをパクつく馬鹿二人、それとカメラに向かってピースする木ノ葉高校の生徒が二人写し出されていて……。
 愕然とするオレに、カカシは殊更笑みを深くする。

「見つけた時、オビトとシカマルに回収頼んでおいて良かったよ。お陰でコッチに集中できる……♡」
「ふざけッ、やめ――っヒ!♡♡♡うあっ、ア!♡♡♡あ゛っ!♡♡♡♡♡」
「っ、締ま……っ♡♡」

 抵抗しようとするオレに構わず、カカシは屹立を思いきり最奥に突き立てる。衝撃で身体が痙攣し、ナカがうねってカカシのを食い絞めるのが自分でも解った。と同時に、オレは絶頂してしまった。
 法悦に蕩けた頭ん中が真っ白に染まる。きっと酷い顔をしているだろう。こんな無様な姿、見せたくないのに……♡

「あー……♡可愛い……♡♡」
「っや、め……♡」

 カシャ、と音がする。何かと思えばカカシがスマホをこちらに向けていて……写真を撮られた事に気付いた。
 腕を伸ばして止めさせようとするが、盛大にイった後で倦怠感が邪魔をして上手く動かない。続けざまに何回か写真を撮ったカカシは、イイ笑顔でオレに笑いかける。

「じゃ、もっともっと楽しもうか♡」

 ……そういえばコイツ、まだイってない、気がっ……♡
 制止しようとしたけれど、もう遅かった。

「あ゛♡まっ、今イッ♡♡あぁ~~~~っっ♡♡♡♡」



 ……オレがホテルを出たのはその数時間後で。
 翌日、昨日のことなんて綺麗に忘れ去っていたデイダラと飛段をぶん殴ったのは……言うまでもない。





 【おまけ】



「あ、カカシから……う、っわ」
「ヤベー……」

 三人だけのNAINグループ。そのトーク画面に送付された画像を見たオビトと、その画面を覗き込んだシカマルは、互いに顔を引き攣らせる。
 セーラー服を身に纏った赤髪の男が、ベッドに仰向けで膝を曲げて寝転んでいる。それだけならまだしも、手首を恐らくスカーフで縛られ、捲れ上がったスカートの下は下着を着けておらず勃ち上がったモノが丸見えだ。ナニカの液体で変色している布地、そして何より……真っ赤に染まって蕩けきった男の顔と、後ろには根本まで深々と突き刺さった肉棒。
 更に言えば、被写体は顔見知りだ。画面を注視し固まってしまった二人に、もう二人の男……デイダラと飛段が声を掛ける。

「何見てんだよオビト、顔赤いぞ?」
「シカマルちゃん、次お前の番だぜ~?」
「お、おう……」
「……あぁ」

 それぞれがそれぞれに応え、オビトはスマホをスリープさせて画面を落とし、シカマルはマイクを握った。
 四人がハンバーガーショップで駄弁っていたのが一時間以上前。今は仲良くカラオケに来ていた。
 全てはカカシのせい……いやおかげか? ダブルデートのような状況を意識しているのはオビトとシカマルだけで、デイダラと飛段の二人は奢ってもらえてラッキー程度にしか考えていないだろう。
 しかし最初は渋っていたものの、奢りだとシカマルに言われて簡単に着いていったデイダラと飛段。有り難かったが、こんなにチョロくて大丈夫かと少し心配にもなるオビトとシカマルだった。

「……な~んか大切なこと忘れてる気がすんだよなぁ、うん」
「オレも……なんだっけか?」

 うーん? と首を傾げる二人にオビトは慌てて声を掛ける。

「まぁまぁ、どうせ大した用事でもないだろ。とりあえず曲入れろって」
「うーん……そうだな! うん!」
「何入れよっかなぁ~……」

 雑な誘導一つでデン○クに釘付けになる二人。オビトは安堵の息を吐き、先程の事を思い出す。
 今日はカカシとオビト、そこにシカマルという珍しい面子で帰っていた。帰宅ラッシュで混雑する駅前を通りがかった時、近くにある喫茶店のテラス席にデイダラと飛段がいる事に気付いた。誰かに手を振っている二人、その視線の先を辿ったオビトは思わず声を上げた。
 セーラー服姿で駅の柱前に立つその男を、オビトは知っていた。何故女装してナンパ待ちしているのかまではわからなかったが……。
 オビトはそっと横に立つカカシを見る。友人は……笑っていた。

「オビト、シカマル。あそこの二人、足止めしててくれない?」
「は……って、オイ!」

 それだけを言い残し、カカシは人混みを掻き分けて男……サソリの元へと迷わず向かっていく。

(まぁ、そうだよな。自分の好きな奴があんな可愛い格好してナンパ待ちしてたら、何としてでも阻止するよな……)

 もしデイダラが、と想像したオビトは真顔になった。絶対にやめてほしい。今度深く深く釘を刺しておかなくては。

「ったく、バカカシめ……貸し一つな。行くぞ、シカマル」
「ハァ……しょうがないッスね」

 同じようにもし飛段が……と想像したシカマルと頷きあったオビトは、喫茶店に足を向ける。今日だけは協力してやろう。そしてすまないサソリ。オレ達の幸せ……ダブルデートのために犠牲になってくれ。
 彼らがナンパに成功するまで、あと数分。

 そして。馬鹿二人が己らに課せられた任務を思い出すのは。次の日の朝、学校に行ってサソリに殴られてからだった。




 
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