短編集

 


 先の戦、第四次忍界大戦より数年が経った頃。
 紆余曲折あり(ありすぎて説明し切れないのでここでは割愛する)大戦後すぐ恋人同士となったナルトとサソリの二人だが。次期火影と風影補佐という立場では……会うこともままならない。現在は上司や友人から助力を賜り、短い逢瀬を重ねている最中だ。
 今日は砂隠れにて火影と風影の会談があるため、ナルトは六代目火影であるカカシの護衛として着いてきていた。五代目風影でありナルトの友でもある我愛羅、その隣に立っているのは我愛羅の補佐を勤めるサソリ。
 我愛羅に用意された宿の部屋は広く、しかも護衛だというのにカカシの部屋からは遠く離れていて……何なら離れに位置する客室だった。
 手違いがあったようだと棒読みで宣う友人に苦笑するナルトと、上司の暴挙に顔をひきつらせるサソリ。護衛対象である筈のカカシからは問題ないとあっさり言い放たれ、ナカヨクしなさいねという余計な一言まで頂いてしまった。

「あ゙ー……」
「オッサン臭ぇってばよ」
「うるせぇ。幾つになると思ってんだ……」

 情事後特有の気だるい空気が漂っている寝室は、ベッドサイドの間接照明だけが灯っており薄暗い。文字通りベッドに沈没しているサソリと、その隣に寝転がりどこか艶々としているナルト。
 サソリは見た目こそ若いが、もう四十代後半だ。忍である以上体力がないわけではないが、傀儡操演者とうずまき一族ではその差は歴然だ。ナルトも歳を取り、二十歳そこらの頃のような性欲任せのセックスではなくなったとはいえ、衰えるにはまだかかるだろう。
 サソリだってそういう事をするのが嫌なわけではない。だが、何れ抱き潰されて次の日ベッドから動けなくなるような情けない姿を恋人に見せる羽目になる……と考えると遠い目になりたくなるというものだ。

「飛雷神の術が使えればなぁ……砂隠れにだってすぐ来れんのに」
「四代目火影のアレか。……お前には向かねぇだろうな」
「だよなぁー」

 ピロートークにしては色気のない会話だが、付き合って数年経てばこんなものだろう。
 マットレスの上で脱力していたサソリだが、何か思い付いたらしい。横向きに寝転がり、ナルトの顔を覗き込む。

「……そんなに、オレに会いたかったのか?」

 余裕げな笑みに低く艶のある声。サソリがターゲットを“落とす”時用の武器を使ったのは、久しぶりにナルトの照れる姿が見たかったから。
 サソリの思い付いた些細な悪戯はしかし、彼にとって意外な結末を迎えた。

「当たり前だろ? オレ、毎日サソリのこと考えてるってばよ」

 ナルトから返ってきたのは、予想とは違う答え。サソリはそれに動揺して固まる。

「サソリは……違うのか?」
「っ……」

 ナルトに真剣な目で見つめられ、サソリの頬に熱が集まる。
 脱力して仰向けに寝転がるサソリ。……降参せざるを得なかった。

「……わかっててやってんだろ、それ」
「はは、バレてたか」

 ナルトが笑い、指先でサソリの目尻を撫でる。年を取ってもその美貌は衰えないが……出会った頃より増えた皺の凹凸にすらナルトが愛しさを覚えることを、サソリは恐らく知らないだろう。

「……次はいつ会えんだろうなぁ」
「さぁな……休暇でも貰えりゃ別だが、難しいだろうな」
「忙しそうだもんな、風影補佐様ってば」
「火影教育も相当みてーだが」
「ゔ……」

 他愛もない会話を重ねる。行為自体もだが、この時間が……どうしようもなく愛しい。それは互いに同じだった。
 ――きっと幾つ歳を取っても、二人は共に居るのだろう。




 
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