短編集

 


 サソリの手がペインの頬を撫でる。ゆっくりと、慈しむように。
 サソリの部屋で、使われることのないベッドに腰掛けたペインと、その上に跨ったサソリ。互いに温度のない身体を寄せ合って、不毛な行為を繰り返す。どちらの肉体も、同じ十五歳でその時を止められている筈なのに……サソリのほうが年若く見える。
 下から上へとペインの輪郭をなぞっていたサソリの指が、眦近くで止まった。波紋模様を描く紫水晶アメジストのような輪廻眼。その眼はじっとサソリを映している。

「やはり……美しいな」

 感嘆の溜め息と共に吐き出された感想。吊り上がった口端には蕩けるような甘さ。うっそりと細められた目には己の顔しか映っていないようで、ペインは歓喜に震えた。
 だが、次の瞬間。

「イタチの写輪眼も美しいが」

 たった今輪廻眼を……ペインの瞳を称賛したその口で、別の男の瞳術を褒めそやすサソリ。ペインの目が細められた。
 アメジストとスモーキークォーツ、その二つの視線が複雑に絡み合う。サソリは素知らぬ振りをして言葉を続けた。

「デイダラが惚れ込む気持ちもわか……っ」
「……黙れ」

 冷酷な光を宿す輪廻眼に見下ろされ、サソリの背筋にゾクゾクと痺れが走る。人傀儡である彼には内側から刺激を沸き起こす器官はない。だがこの感覚は、サソリが人間であった時の名残で……“そんな気がしただけ”、その筈だ。

「嫉妬か?」

 サソリからの問いに、ペインは明確に眉根を寄せる。だが相手の表情に僅かな喜色が見て取れ、揶揄われたのだと理解して溜め息を吐いた。

「可愛い相方の狙ってるモンを横取りする趣味はねーよ。オレにとってはお前が一番だ」
「どうだかな……」
「本心だぜ?」

 サソリがリップサービスのような軽い口調で吐く台詞は、どこまでも甘い。余裕げな笑みを崩さない彼に無性に腹が立ち、ペインはサソリを思い切り抱き締める。

「……お前は、オレのものだ。だからオレだけを見ていろ」

 サソリの耳元で囁くペイン。独占欲に塗れたその台詞を聞き、サソリは笑みを深めた。肚の底から揺さぶられるような、締め付けられるような感覚……捨てた筈の感情が心地好かった。

「クク……その時が来たら最高傑作にしてやるよ」

 御伽話でしか見聞きしたことのない瞳術を最初に見た時、己の芸術に仕立て上げるに相応しいとそう思ったサソリ。だからペインに近づいた。それなのに、今は……。
 ペインの背中に、自分の腕を回すサソリ。そうしてきつく抱き合う。双方の身体には決して生まれる筈のない熱を求めるように。




 
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