短編夢まとめ

 「なあ、あの子よくね?」と、ひそひそ小声で話す男二人組の視線の先には、金髪赤目のにこにことした微笑みを讃えた少女。彼女を見て「かわいいな、確かに」「愛想良さそうだし、ちょっと行ってみる?」などと宣っている。

「…………」

 苛立つ気持ちも、今すぐ水のリボルバーを撃ちたい気持ちもどうにか抑え込んで。レモネードは足早に自分を待つ少女の元へと駆け付ける。ニコラシカ、と呼べば、彼女は途端にぱああ……!と分かりやすく瞳を輝かせて「レモネードさん!」と嬉しそうに駆け寄ってくる。その様子は、まるで大好きな飼い主を見つけて駆け寄ってくるペットの犬のようで、微笑ましいような気持ちになる。……まあ、彼女はペットの犬でもなんでもなく、紛れもなく自分の恋人なのだが。

「なんだ、彼氏いたのかよ……」

 ニコラシカを狙っていた男達が、残念そうに呟いているのが聞こえた。
 ……そうだ。こいつは、ニコラシカはオレのものだ。てめえらになんざ、1ミリたりともくれてやらねえ。

「レモネードさん? どうかしまし、」

 黙ったままのレモネードを心配した、ニコラシカの言葉は最後まで音にならなかった。いきなり唇を塞がれて、彼女はみるみるうちに頬を赤く染めて、身体をぴしりと固まらせた。

 レモネードとニコラシカを見つめていた男達は、思わず息を呑む。大胆だな、と思っていた次の瞬間、ひっ……!と声を漏らした。
 すう、と開かれた鋭いアイスブルーの三白眼とかち合ったのだ。それは、見るもの全てを凍てつかせるほどに冷たいもの。まるで蛇に睨まれた蛙だ。あまりの恐怖で、体ががたがたと震えた男達は、お互いの顔を見合わせる。
 「も、もう行こうぜ」「あ、ああ……!」言葉少なに言って、そそくさと男達はその場から逃げるように走り去った。レモネードはそれを確認して、ニコラシカから唇を離す。

「ケケッ、間抜けヅラしてんじゃねえよ」
「だ、だって……! いきなりキスされたら、驚いちゃいます……!」

 わたわたと初な反応をする彼女は、何度見ても飽きないし、かわいい。もう少しいじめてやりたいような気持ちがむくむくと芽生えてくるが、抑えておく。

「……今度から迎えに行く」

 放っておいたら、てめえはよく分かんねえ奴引き寄せそうだからな。と呟いたレモネードに「何の話ですか?」と疑問符を飛ばしているニコラシカ。彼女の手に己の手を絡ませながら、「さあな」と、レモネードはしらばっくれた。
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