短編夢まとめ
高いヒールを履いて颯爽と歩く、美しい大人の女性に憧れていた。レモネードさんのお隣に少しでも相応しい女性になりたい……そんな想いから、少し背伸びをして買った華奢なハイヒール。履いてみたら、ヒールが高く細くて、走ることは愚か、まともに歩くことすらかなり危うかった。
「う……! バランスをとって歩くのが難しい……! ぐらぐらします……!」
転ばないように、足先に力を込めてよたよたと歩く。少しでも気を抜いたらあっという間に転んでしまいそうで、私は内心でとても落ち込んでいた。
(これでは、却ってレモネードさんに迷惑を掛けてしまいます……)
私達バンカーは、普通に過ごしているだけでもバンカーバトルを突如挑まれることが多い。いつどこで戦場を駆けることになるかも分からない身なので、履き慣れない靴を履いていたことが原因でバトルに負けるなんてことが起きたら問題外だ。自分の浅はかな願いで、レモネードさんに迷惑は掛けられない。
大人っぽいハイヒールを履けたら、レモネードさんのお隣に相応しくなれるかもしれないと思ったけれど……まだまだ私には早かったのだと。そう思い知らされた気がして、私は少し落ち込みながらハイヒールを脱ごうとした。
「さっきから何生まれたての小鹿みてえに震えてんだ?」
「えっ?!あ、レモネードさん……!きゃ?!」
レモネードさんに話し掛けられてびっくりしてしまった影響で、私はバランスを崩して地べたに転びそうになる。けれど、レモネードさんは転びそうになった私にすぐ気付いて「鈍くせえな」と言いながら私の身体をしっかりと抱き留めてくれた。
「ご、ごめんなさい……!抱き留めてくださり、ありがとうございますレモネードさん……!」
「ケッ、転ばれて怪我された方が面倒だからな。……つーかお前それ……ハイヒールか?」
私が履いていた靴に気付いたらしく、レモネードさんはしげしげと私の足元を見つめる。そうして「靴擦れしてんじゃねーか。てめえの足に合ってねえだろそれ」と、呆れたように溜息を吐いた。
「あ、ほんとだ……いつのまに……」
「……てめえ、ハイヒールに憧れるのはいいけどよ、ちゃんと合ってるやつ買わねえと意味ねえだろ。……仕方ねえな」
少し大人しくしてろよ、とレモネードさんは言うと、私の足からハイヒールを優しい手つきで脱がし、そのままひょいっと私の身体を軽々と持ち上げてしまった。所謂お姫様抱っこをされて、私は目を白黒とさせてしまう。
「えっ?!あ、あの……レモネードさん?!」
「てめえの足に合ったハイヒール、このオレさまが選んでやるよ。今から靴屋に連れてってやる」
「そ、そうではなくて! 私一人でも歩けますから……!下ろして頂けたらと……!私重いですし……!」
「こんな傷だらけの足で歩かれて、余計な傷増やされでもしたら見てられねえんだよ。そもそもテメエ如き運ぶのなんて何ともねえから、つべこべ言わずに大人しくしてろ」
一人でも歩けると言っても、レモネードさんは大人しくしてろの一点張りだ。……ぶっきらぼうな言い回しだけれど、私のことを心配して仰ってくださるのが伝わってくる。
「……ご迷惑をお掛けしてごめんなさい……レモネードさん……」
レモネードさんの隣を歩くのに相応しい、カッコいい大人の女性になりたかっただけなのに。まずは形から入ってみようと、大人っぽいハイヒールを履いてみてこんな失敗をしてしまうだなんて……と、浅はかだった自分に落ち込む。
「迷惑だなんて思ってねえ。……テメエがその靴選んだの、どうせオレが理由なんだろ?」
「……! は、はい……!どうしてそれを……?!」
レモネードさん相手に、隠し事はやっぱりできないなって思う。私が自分の足に合わないハイヒールを選んだ理由なんて、とっくにレモネードさんには筒抜けだったみたいだ。
「テメエが行動起こすの、だいたいがオレに関することだろ。……だから、オレがてめえに選んでやるよ」
テメエが転ばないで歩けるハイヒールをな。と。ニコラシカを抱えながらレモネードは不敵に笑った。
無理に背伸びなんかする必要はない。ありのままのニコラシカでいれば良い。そう言ったとしても、きっとニコラシカは納得しきれないだろうとレモネードは分かっていたから……彼女の願いにできるだけ寄り添おうとしたのだ。
「わあ……!すごいです!このハイヒール歩きやすい……!レモネードさんとの目線もいつもより近いです!えへへ……大人の女の人に近づけたみたい……!」
レモネードに選んでもらった、足の形を美しく見せつつも歩きやすさにも拘ったという、形の良いハイヒールを履いてニコラシカは無邪気に喜ぶ。ぴょこぴょこと元気よく動いているアホ毛を見て、こういう子犬のように素直で可愛らしいところが、ニコラシカを大人っぽい印象から更に遠ざけてるとも思うのだが……レモネードは彼女のそういうところを好ましいと思っているので、言わないでおいた。
「じゃあ次はその靴に合う服も買ってやるよ。ほら、とっととこっち来い」
「え?! 靴まで買っていただいたのに悪いですよ……!レモネードさーん!!」
自分に手を引かれながら、わたわたと慌てているニコラシカが大変に愛らしい。ニコラシカを大人っぽく見せる洋服は、どんなものになるだろうか?とニコラシカのころころと変わる表情を見つめつつ、レモネードは考えていた。
終
「う……! バランスをとって歩くのが難しい……! ぐらぐらします……!」
転ばないように、足先に力を込めてよたよたと歩く。少しでも気を抜いたらあっという間に転んでしまいそうで、私は内心でとても落ち込んでいた。
(これでは、却ってレモネードさんに迷惑を掛けてしまいます……)
私達バンカーは、普通に過ごしているだけでもバンカーバトルを突如挑まれることが多い。いつどこで戦場を駆けることになるかも分からない身なので、履き慣れない靴を履いていたことが原因でバトルに負けるなんてことが起きたら問題外だ。自分の浅はかな願いで、レモネードさんに迷惑は掛けられない。
大人っぽいハイヒールを履けたら、レモネードさんのお隣に相応しくなれるかもしれないと思ったけれど……まだまだ私には早かったのだと。そう思い知らされた気がして、私は少し落ち込みながらハイヒールを脱ごうとした。
「さっきから何生まれたての小鹿みてえに震えてんだ?」
「えっ?!あ、レモネードさん……!きゃ?!」
レモネードさんに話し掛けられてびっくりしてしまった影響で、私はバランスを崩して地べたに転びそうになる。けれど、レモネードさんは転びそうになった私にすぐ気付いて「鈍くせえな」と言いながら私の身体をしっかりと抱き留めてくれた。
「ご、ごめんなさい……!抱き留めてくださり、ありがとうございますレモネードさん……!」
「ケッ、転ばれて怪我された方が面倒だからな。……つーかお前それ……ハイヒールか?」
私が履いていた靴に気付いたらしく、レモネードさんはしげしげと私の足元を見つめる。そうして「靴擦れしてんじゃねーか。てめえの足に合ってねえだろそれ」と、呆れたように溜息を吐いた。
「あ、ほんとだ……いつのまに……」
「……てめえ、ハイヒールに憧れるのはいいけどよ、ちゃんと合ってるやつ買わねえと意味ねえだろ。……仕方ねえな」
少し大人しくしてろよ、とレモネードさんは言うと、私の足からハイヒールを優しい手つきで脱がし、そのままひょいっと私の身体を軽々と持ち上げてしまった。所謂お姫様抱っこをされて、私は目を白黒とさせてしまう。
「えっ?!あ、あの……レモネードさん?!」
「てめえの足に合ったハイヒール、このオレさまが選んでやるよ。今から靴屋に連れてってやる」
「そ、そうではなくて! 私一人でも歩けますから……!下ろして頂けたらと……!私重いですし……!」
「こんな傷だらけの足で歩かれて、余計な傷増やされでもしたら見てられねえんだよ。そもそもテメエ如き運ぶのなんて何ともねえから、つべこべ言わずに大人しくしてろ」
一人でも歩けると言っても、レモネードさんは大人しくしてろの一点張りだ。……ぶっきらぼうな言い回しだけれど、私のことを心配して仰ってくださるのが伝わってくる。
「……ご迷惑をお掛けしてごめんなさい……レモネードさん……」
レモネードさんの隣を歩くのに相応しい、カッコいい大人の女性になりたかっただけなのに。まずは形から入ってみようと、大人っぽいハイヒールを履いてみてこんな失敗をしてしまうだなんて……と、浅はかだった自分に落ち込む。
「迷惑だなんて思ってねえ。……テメエがその靴選んだの、どうせオレが理由なんだろ?」
「……! は、はい……!どうしてそれを……?!」
レモネードさん相手に、隠し事はやっぱりできないなって思う。私が自分の足に合わないハイヒールを選んだ理由なんて、とっくにレモネードさんには筒抜けだったみたいだ。
「テメエが行動起こすの、だいたいがオレに関することだろ。……だから、オレがてめえに選んでやるよ」
テメエが転ばないで歩けるハイヒールをな。と。ニコラシカを抱えながらレモネードは不敵に笑った。
無理に背伸びなんかする必要はない。ありのままのニコラシカでいれば良い。そう言ったとしても、きっとニコラシカは納得しきれないだろうとレモネードは分かっていたから……彼女の願いにできるだけ寄り添おうとしたのだ。
「わあ……!すごいです!このハイヒール歩きやすい……!レモネードさんとの目線もいつもより近いです!えへへ……大人の女の人に近づけたみたい……!」
レモネードに選んでもらった、足の形を美しく見せつつも歩きやすさにも拘ったという、形の良いハイヒールを履いてニコラシカは無邪気に喜ぶ。ぴょこぴょこと元気よく動いているアホ毛を見て、こういう子犬のように素直で可愛らしいところが、ニコラシカを大人っぽい印象から更に遠ざけてるとも思うのだが……レモネードは彼女のそういうところを好ましいと思っているので、言わないでおいた。
「じゃあ次はその靴に合う服も買ってやるよ。ほら、とっととこっち来い」
「え?! 靴まで買っていただいたのに悪いですよ……!レモネードさーん!!」
自分に手を引かれながら、わたわたと慌てているニコラシカが大変に愛らしい。ニコラシカを大人っぽく見せる洋服は、どんなものになるだろうか?とニコラシカのころころと変わる表情を見つめつつ、レモネードは考えていた。
終
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