短編夢まとめ
その日のレモネードさんは、なんだかいつもと様子が違っていた。言葉にも態度にも出さないようにしているみたいだったけれど……ほんの僅かに、顔色が優れていない様子だったのを、私は見逃さなかった。
「レモネードさん、おでこを貸してくださいっ!」
「あ……? なんだよいきなり、」
レモネードさんの腕を掴んで、私はぐいと背伸びをして……レモネードさんの額に、手を当てる。彼の体温はいつもは低めなのに……私でも分かるくらいに、額は熱を帯びていた。
「レモネードさん、やっぱりお熱あるじゃないですか……!」
思わず語気を強めてしまう。体調が優れないのならば、お休みするべきなのに……! どうして、レモネードさんってば無理をしてしまうのだろうか。
「うるせえ……これくらい、たいしたことねえよ。ほっときゃ、なおるだろ……」
「……! いけません!!」
こんなにも、目に見えて弱っていらっしゃるというのに……! それでも聞かずに動こうとするレモネードさんを、私は叱る。私が声を荒げたことに驚いたのか、レモネードさんは驚いたように目を見開いていらっしゃった。
「そうやってご自分の身体を……蔑ろにしないでください! 小さな風邪が悪化して……大きな病気に繋がってしまうこともあるのですよ?! ……私は、レモネードさんに……つらい思いなんてしてほしくありません……!」
きゅ……と、レモネードさんの手を握りしめながら、私は言葉を続ける。
……レモネードさんには、自由に楽しく……過ごしていてほしい。彼の楽しそうな表情を見るのが、私にとって一番の幸せと言っても過言じゃない。
だから。例え過ぎたお節介だと言われたとしても……レモネードさんの体調が宜しくないご様子を放っておくだなんて私には絶対にできなかった。レモネードさんが大丈夫だと仰ったとしても、ここだけは絶対に「そうですか」の一言で引きたくなかったんだ。
「ケッ。……なんで、てめえはこういう時だけはそんな頑固なんだよ……」
そういうの、もう少し自分に回しやがれ。なんて言いながらも……レモネードの表情は少し柔らかだった。
「……オレさまがこんな風邪くらいで、簡単にくたばるわけねえが……てめえの言うこと、聞いてやるよ。それで……いいんだろ……」
「そうです! ……レモネードさんがつらそうなのが、私にとっては一番……つらくて、苦しいんです。だから……はやく、元気になってください。私は、その為にもレモネードさんの看病を……せいいっぱい致しますからっ!」
レモネードの手を優しく引いて、ニコラシカは彼を自室のベッドまで誘導する。……本当は、とてもしんどいのだろうに。しっかりとした足取りを心掛けて歩くのは、レモネードなりのプライドから来るものだ。
(今まで、誰にも気付かれたこともねえってのに……)
ニコラシカと再会するまでの人生で、体調が芳しくないことは何度かあった。しかし、僅かな隙を見せれば足元を掬われかねない環境下で生きてきたレモネードにとって……体調不良を他者に悟られることの方が危険だった。意地でも悟られぬように、いつも通りを心掛けて立ち振る舞うことが当たり前だったのに……ニコラシカには、こんなにも容易に気づかれてしまう。彼女がどれほど、自分のことを見ていてくれているのかを……改めて思い知らされる。
「レモネードさん、お部屋に着きました。……ベッドに横になっていてくださいね?」
そうこう考えているうちに、自室に辿り着いていた。ニコラシカに促されるままに、おとなしくベッドに身体を沈ませる。……途端に、一気に気怠さが全身に押し寄せる感覚があった。……自覚していなかったが、自分の身体は思いの外限界だったらしい。
「わたし、お粥とお薬のご用意をしてきますね! 冷たいお飲み物もお持ちして参りますから……少し待っていてくださ、きゃっ?!」
「……まだ、行くな」
自分の元から立ち去ろうとする彼女の腕を、レモネードは強引に掴む。
……熱で大分、自分の頭が茹だってやられてしまっているのが分かる。けれど、それでも……この時は、彼女に立ち去ってほしくないという、気持ちのほうが強かったのだ。
「……今は……黙って、オレのそばに……いろ……」
「レモネードさん……」
独りになるのが心細いだなんて笑える。今までずっと、孤独が当たり前だったのに。
自分を蔑ろにするなと、ニコラシカに叱られたことを思い返す。以前までの自分だったら、「余計なお世話だ」と……彼女の言葉を煩わしく思ったかもしれない。でも、今は……彼女が、自分を想って叱ってくれたことが……嬉しかったのだ。
今まで、こんなふうに本気で……誰かに心配されたことなんか無かったから。尚更。
「大丈夫ですよ。私は……ニコラシカは、レモネードさんのおそばにずっと、ずっとおりますから」
今は安心して休んでください。優しく、まるで子守唄でも歌うかのような声音でいいながら、ニコラシカはレモネードの頭を優しく撫でる。
子ども扱いしてんじゃねえ、と悪態吐きながらも……レモネードは、ニコラシカの言葉に身を委ねるかのように瞼を閉ざした。
「レモネードさん、おでこを貸してくださいっ!」
「あ……? なんだよいきなり、」
レモネードさんの腕を掴んで、私はぐいと背伸びをして……レモネードさんの額に、手を当てる。彼の体温はいつもは低めなのに……私でも分かるくらいに、額は熱を帯びていた。
「レモネードさん、やっぱりお熱あるじゃないですか……!」
思わず語気を強めてしまう。体調が優れないのならば、お休みするべきなのに……! どうして、レモネードさんってば無理をしてしまうのだろうか。
「うるせえ……これくらい、たいしたことねえよ。ほっときゃ、なおるだろ……」
「……! いけません!!」
こんなにも、目に見えて弱っていらっしゃるというのに……! それでも聞かずに動こうとするレモネードさんを、私は叱る。私が声を荒げたことに驚いたのか、レモネードさんは驚いたように目を見開いていらっしゃった。
「そうやってご自分の身体を……蔑ろにしないでください! 小さな風邪が悪化して……大きな病気に繋がってしまうこともあるのですよ?! ……私は、レモネードさんに……つらい思いなんてしてほしくありません……!」
きゅ……と、レモネードさんの手を握りしめながら、私は言葉を続ける。
……レモネードさんには、自由に楽しく……過ごしていてほしい。彼の楽しそうな表情を見るのが、私にとって一番の幸せと言っても過言じゃない。
だから。例え過ぎたお節介だと言われたとしても……レモネードさんの体調が宜しくないご様子を放っておくだなんて私には絶対にできなかった。レモネードさんが大丈夫だと仰ったとしても、ここだけは絶対に「そうですか」の一言で引きたくなかったんだ。
「ケッ。……なんで、てめえはこういう時だけはそんな頑固なんだよ……」
そういうの、もう少し自分に回しやがれ。なんて言いながらも……レモネードの表情は少し柔らかだった。
「……オレさまがこんな風邪くらいで、簡単にくたばるわけねえが……てめえの言うこと、聞いてやるよ。それで……いいんだろ……」
「そうです! ……レモネードさんがつらそうなのが、私にとっては一番……つらくて、苦しいんです。だから……はやく、元気になってください。私は、その為にもレモネードさんの看病を……せいいっぱい致しますからっ!」
レモネードの手を優しく引いて、ニコラシカは彼を自室のベッドまで誘導する。……本当は、とてもしんどいのだろうに。しっかりとした足取りを心掛けて歩くのは、レモネードなりのプライドから来るものだ。
(今まで、誰にも気付かれたこともねえってのに……)
ニコラシカと再会するまでの人生で、体調が芳しくないことは何度かあった。しかし、僅かな隙を見せれば足元を掬われかねない環境下で生きてきたレモネードにとって……体調不良を他者に悟られることの方が危険だった。意地でも悟られぬように、いつも通りを心掛けて立ち振る舞うことが当たり前だったのに……ニコラシカには、こんなにも容易に気づかれてしまう。彼女がどれほど、自分のことを見ていてくれているのかを……改めて思い知らされる。
「レモネードさん、お部屋に着きました。……ベッドに横になっていてくださいね?」
そうこう考えているうちに、自室に辿り着いていた。ニコラシカに促されるままに、おとなしくベッドに身体を沈ませる。……途端に、一気に気怠さが全身に押し寄せる感覚があった。……自覚していなかったが、自分の身体は思いの外限界だったらしい。
「わたし、お粥とお薬のご用意をしてきますね! 冷たいお飲み物もお持ちして参りますから……少し待っていてくださ、きゃっ?!」
「……まだ、行くな」
自分の元から立ち去ろうとする彼女の腕を、レモネードは強引に掴む。
……熱で大分、自分の頭が茹だってやられてしまっているのが分かる。けれど、それでも……この時は、彼女に立ち去ってほしくないという、気持ちのほうが強かったのだ。
「……今は……黙って、オレのそばに……いろ……」
「レモネードさん……」
独りになるのが心細いだなんて笑える。今までずっと、孤独が当たり前だったのに。
自分を蔑ろにするなと、ニコラシカに叱られたことを思い返す。以前までの自分だったら、「余計なお世話だ」と……彼女の言葉を煩わしく思ったかもしれない。でも、今は……彼女が、自分を想って叱ってくれたことが……嬉しかったのだ。
今まで、こんなふうに本気で……誰かに心配されたことなんか無かったから。尚更。
「大丈夫ですよ。私は……ニコラシカは、レモネードさんのおそばにずっと、ずっとおりますから」
今は安心して休んでください。優しく、まるで子守唄でも歌うかのような声音でいいながら、ニコラシカはレモネードの頭を優しく撫でる。
子ども扱いしてんじゃねえ、と悪態吐きながらも……レモネードは、ニコラシカの言葉に身を委ねるかのように瞼を閉ざした。