短編夢まとめ
第一印象は、歓楽街とはいかにも無縁そうな、鈍臭いガキ。店の前で面倒を起こされたくなかったからという理由で、助けただけの少女だった。
……いや、助けたというのは、ただの結果だ。その日のオレはとにかくムシャクシャしていた。面倒で厄介、金に物を言わそうとする客の相手をしたことによるストレスが溜まりにたまっていて、とにかく発散したかった。そこに、店の前で丁度バカな野郎二人が少女に絡んでいたから、ストレス発散がてらに蹴飛ばしただけ。
完全に晴れたわけじゃなかったが幾分かスッキリはした。そのついでに、そこにぽかーんと突っ立っていた女に声を掛けたら、「今度、お礼をさせてください!」と言われたのだ。それが、女……ニコラシカとの出逢いだった。
「微々たるものかもしれませんが、その、少しでもレモネードさんの売上に貢献できればと思って……お金を下ろしてきましたので! どうぞ、好きなものをお飲みください!」と、ニコラシカは屈託のない笑みで言って、オレに自分なりの礼を尽くそうとしてきたのだ。
だが、この時のオレは「ガキから金貰うほど落ちぶれてねえ」と突っぱねた。貰えるものは貰う主義だし、なんなら巻き上げられるだけ巻き上げてやろうと言うのが普段のオレだが……、ニコラシカのような少女にそれをするのは、プライドが許さなかった。
……そう、最初はそれだけだった。それがいつから、「ニコラシカがガキだから受け取らない」という理由から「金を受け取ってしまったら、礼を果たしたと判断した彼女は自分の元に来なくなる」に変わってしまったのか。
「一人の女性に入れ込むなど……ホストとして言語道断ですよ。分かっていますかレモネードくん」とマルゲリータの奴にうざってえほど釘を刺される始末だ。
(分かってんだよ、んなこと)
頭では分かっている。ホストである自分は、自分に金を落とす女全員のものであり、ニコラシカ一人にかまけるなど許されない。
……けれど。
「か、からかわないでください〜!!」
頬をぷく、と膨らませて怒るニコラシカの頬をつつく。自分の腕の中に納めた彼女が、照れたり怒ったり困ったり……くるくると表情を変える様子があまりにも可愛くて、からかうのをやめられない。
……ニコラシカの前だと、自分を偽らなくていい。彼女の傍は居心地がよくて、いつからか荒んでいた心が癒やされていたのだ。
「……これじゃあ、営業妨害です。私、レモネードさんにお礼がしたいだけなのに……」
ぽつり、とニコラシカが小さく零した独り言は、聞こえないフリをした。
オレ以外のことを考えるな。されるがままになってろ。……それらは全て、レモネードがニコラシカへと向ける身勝手な独占欲で、執着だった。彼女が自分の元へ来なくなってしまうのが嫌で、彼女の礼を受け取らないでいる。ホスト失格だと分かっていても、ニコラシカが来ない日々が来るのが嫌だった。
普段、金をいくら積まれたってやらない、恋人みたいな距離感とスキンシップ。レモネードがそれをする時点で、ニコラシカという少女は特別なのだということは、火を見るより明らかだった。
……肝心のニコラシカは、それら全てはサービスの一貫としてやっているだけだと思っているのだから、全く伝わっていないのだが。ホストという職業柄仕方ないとは言え、どうにもならない現状がもどかしくて、苛立つ。
「レモネードさん、私、そろそろ帰らないと……」
ニコラシカが身を捩る。腕の中に閉じ込めた少女は、時間が経てば自分の元から離れて、このぎらぎらとした世界とは無縁の場所へと帰っていく。
ニコラシカは財布から、(受け取らないと知っているだろうに)下ろしてきたのであろう、彼女にとっての大金を取り出そうとする。
「いらねえって言ってんだろ。分からねえやつだな」
「でも、」
ニコラシカが取り出そうとした財布を、彼女の鞄に問答無用で押し戻す。困ったようにオロオロしながらも、受け取らない意思が固いのだと分かると、ニコラシカは仕方なさそうにため息を吐いて、諦めた。
「……駅まで送ってく」
「は、い……」
指先を絡めて、無理矢理に手を繋ぐ。距離感を恋人のように近づけたって、心の距離は依然として縮まらない。
好きだとか愛してるとか、いっそ言ってしまえばいいのだろうか。そうすれば、彼女はずっと自分の元にいてくれるようになるのだろうか。
……それとも、リップサービスの一貫だと片付けられてしまうのだろうか。らしくもなくぐるぐると思考しながら、レモネードは今日も、ニコラシカをどうにか自分の傍に繋ぎ止めるための手段を考える。
……いや、助けたというのは、ただの結果だ。その日のオレはとにかくムシャクシャしていた。面倒で厄介、金に物を言わそうとする客の相手をしたことによるストレスが溜まりにたまっていて、とにかく発散したかった。そこに、店の前で丁度バカな野郎二人が少女に絡んでいたから、ストレス発散がてらに蹴飛ばしただけ。
完全に晴れたわけじゃなかったが幾分かスッキリはした。そのついでに、そこにぽかーんと突っ立っていた女に声を掛けたら、「今度、お礼をさせてください!」と言われたのだ。それが、女……ニコラシカとの出逢いだった。
「微々たるものかもしれませんが、その、少しでもレモネードさんの売上に貢献できればと思って……お金を下ろしてきましたので! どうぞ、好きなものをお飲みください!」と、ニコラシカは屈託のない笑みで言って、オレに自分なりの礼を尽くそうとしてきたのだ。
だが、この時のオレは「ガキから金貰うほど落ちぶれてねえ」と突っぱねた。貰えるものは貰う主義だし、なんなら巻き上げられるだけ巻き上げてやろうと言うのが普段のオレだが……、ニコラシカのような少女にそれをするのは、プライドが許さなかった。
……そう、最初はそれだけだった。それがいつから、「ニコラシカがガキだから受け取らない」という理由から「金を受け取ってしまったら、礼を果たしたと判断した彼女は自分の元に来なくなる」に変わってしまったのか。
「一人の女性に入れ込むなど……ホストとして言語道断ですよ。分かっていますかレモネードくん」とマルゲリータの奴にうざってえほど釘を刺される始末だ。
(分かってんだよ、んなこと)
頭では分かっている。ホストである自分は、自分に金を落とす女全員のものであり、ニコラシカ一人にかまけるなど許されない。
……けれど。
「か、からかわないでください〜!!」
頬をぷく、と膨らませて怒るニコラシカの頬をつつく。自分の腕の中に納めた彼女が、照れたり怒ったり困ったり……くるくると表情を変える様子があまりにも可愛くて、からかうのをやめられない。
……ニコラシカの前だと、自分を偽らなくていい。彼女の傍は居心地がよくて、いつからか荒んでいた心が癒やされていたのだ。
「……これじゃあ、営業妨害です。私、レモネードさんにお礼がしたいだけなのに……」
ぽつり、とニコラシカが小さく零した独り言は、聞こえないフリをした。
オレ以外のことを考えるな。されるがままになってろ。……それらは全て、レモネードがニコラシカへと向ける身勝手な独占欲で、執着だった。彼女が自分の元へ来なくなってしまうのが嫌で、彼女の礼を受け取らないでいる。ホスト失格だと分かっていても、ニコラシカが来ない日々が来るのが嫌だった。
普段、金をいくら積まれたってやらない、恋人みたいな距離感とスキンシップ。レモネードがそれをする時点で、ニコラシカという少女は特別なのだということは、火を見るより明らかだった。
……肝心のニコラシカは、それら全てはサービスの一貫としてやっているだけだと思っているのだから、全く伝わっていないのだが。ホストという職業柄仕方ないとは言え、どうにもならない現状がもどかしくて、苛立つ。
「レモネードさん、私、そろそろ帰らないと……」
ニコラシカが身を捩る。腕の中に閉じ込めた少女は、時間が経てば自分の元から離れて、このぎらぎらとした世界とは無縁の場所へと帰っていく。
ニコラシカは財布から、(受け取らないと知っているだろうに)下ろしてきたのであろう、彼女にとっての大金を取り出そうとする。
「いらねえって言ってんだろ。分からねえやつだな」
「でも、」
ニコラシカが取り出そうとした財布を、彼女の鞄に問答無用で押し戻す。困ったようにオロオロしながらも、受け取らない意思が固いのだと分かると、ニコラシカは仕方なさそうにため息を吐いて、諦めた。
「……駅まで送ってく」
「は、い……」
指先を絡めて、無理矢理に手を繋ぐ。距離感を恋人のように近づけたって、心の距離は依然として縮まらない。
好きだとか愛してるとか、いっそ言ってしまえばいいのだろうか。そうすれば、彼女はずっと自分の元にいてくれるようになるのだろうか。
……それとも、リップサービスの一貫だと片付けられてしまうのだろうか。らしくもなくぐるぐると思考しながら、レモネードは今日も、ニコラシカをどうにか自分の傍に繋ぎ止めるための手段を考える。