短編夢まとめ

『続いてのニュースです。有名私立マッシュ高校の理事長が職務中に飲酒、多数の生徒に暴行した疑いで現行犯逮捕されました』

 時刻確認の為に何気なく付けていたテレビ。普段ならば、ニュースキャスターが読み上げる報道内容など軽く聞き流すレベルなのに……オレは思わず、制服に着替えていた己の手を止めた。

「……朝から嫌な予感がしやがる……」

 私立マッシュ高校といえば、先日野球の試合で当たったところであり……ビシソワーズ孤児院で、自分にやたらと構っては「兄弟」だとかなんだとか言って絡んできやがっていた5人組が通っている、有名私立高校だ。金持ちばかりが通う、エリートの学校で起きたまさかの不祥事は……ニュースで真っ先に報道されるほど、世間に衝撃を与えたのだろう。

「レモネードさん、お着替えは終わりましたか? 朝ごはん、もうそろそろできますよっ!」
「……あぁ、今行く」

 同じく制服に着替えたニコラシカが、オレを呼びに来た。一週間の始まりである月曜日はいつも、オレはニコラシカが住んでいるアパートから登校する。女の一人暮らしで、土日の二日間こいつを一人きりにしておくのは気が気じゃないから……オレは毎週土日は、ニコラシカが住んでいるアパートの一室に泊まっているのだ。
 ネクタイを締めて、リビングへと向かう。ふわ、とトーストの焼けた匂いと、コーヒーのほろ苦い香りが立ち込めた。

「ごめんなさいっ、ちょっと寝坊しちゃいました……朝ごはん、簡単なものしか用意できなくて……」
「あ? これだけありゃ充分だろ」

 寧ろオレ一人だけの時は、朝は抜くことが多い。ニコラシカがいる時くらいなのだ、三食をきちんと食べているのは。
 かりっ、と音を立ててトーストを食べながら……オレは、先程のニュースの内容が頭から離れないでいた。どうしようもない嫌な予感と胸騒ぎは……この後、すぐに的中する事となる。


***


「……なんだァ? 朝からこの騒ぎはよ……」
「物凄い人だかりですね……一体何があったのでしょう……?」

 いつも通りバイクで登校し、駐車場にバイクを停めてから高校へと向かう途中。校門前には、数多の生徒達がざわついていた。
 よく目を凝らして見てみると……何やら、黒光りの立派なリムジンが停まっていた。それに、オレは本能的に直感する。……この後、とんでもなく面倒なことが起きるということを……!

「にゃ〜!シトロンにニコラシカ〜!おっはようだにゃ! 朝から一緒にいるだなんて……ほーんと相変わらずラブラブなのにゃ〜!!」
「テメエ……! なんでここにいやがる!!」

 リムジンから出てきやがったのは、最も会いたくない5人組だった。その中でも特にうざったくて、極力喋りたくもない奴……スズキの野郎が、オレ達を視界に入れるや否や、手をぶんぶんと振りながらこちらに駆け寄ってくる。いやいい、来なくていい。来るな、なんて念など通じるはずもないのがまた腹立だしい。

「にゃはは〜! 実はね、今日から僕達もこの学校に通うことになったんだにゃ!よろしくだにゃ〜!」
「はァ?! 冗談だろ……?!」

 告げられた衝撃の言葉に、オレは目を見開くしかない。目眩がするような思いとはこのことを言うのだろうか。
 いっそ悪い夢であってくれ、と思わずにはいられないのだが……そんな現実逃避に、意味などないことも知っている。

「実は……僕達が通っていた学園の理事長が不祥事を起こして、廃校になってしまってね……」

 ああ、知ってる。今日の朝、ニュースになってたからな……!
 だが、なんでよりにも寄って転校先にここを選んできやがった? 嫌がらせか何かか?

「そういうわけだから、シトロンにニコラシカ……これからよろしくね? 私達、この学校のこと……分からないことだらけだから……」
「は、はいっ! 私達でお力になれることなら……ぜひ! よろしくお願いします!」

 ニコラシカは戸惑いつつも、律儀にブーケガルニにぺこりと頭を下げていた。

(嘘だろ……こいつらと関わると大体ロクなことが起きねえってのに……!)

 オレの兄弟だと主張してくるこいつらに絡まれた時の思い出は……大抵ロクな記憶しかない。世間知らずなこいつらに何度……振り回されたことだろうか。でかいガキのお守りをするような気苦労など、絶対に勘弁願いたいのだ。
 これからの学校生活を思うと……レモネードは頭が痛くなるような思いだった。

「あ!そういえば僕達毎朝リムジンに乗って登校してるんだけど、シトロン達もこれからどうかにゃ〜?!」
「この……ボンボン一家が……!!」

 マッシュ高校から転校してきた5人組……通称ビシソワーズ兄弟達のお目付け役にされて、レモネードが担任のマルゲリータ先生に反発しまくるのは、また別の話だ。

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