短編夢まとめ

 艶やかな美しさを持つ、綺麗な女の人がレモネードさんに話し掛けているのが見えた。慣れた様子でレモネードさんの腕に、自分の腕を絡ませているその様子に……私の心はちくりと痛む。レモネードさんの傍に駆寄ろうとした足が、止まってしまう。

「ふふ、相変わらずかっこいいね。……ねえ、あたしとまた一緒に遊ぼうよ」

 妖艶な笑み。同性の私ですら、その女性の笑みがとても魅力的に映ることが分かる。

「はあ? テメエ誰だ? うぜえな。たかが昔一回遊んでやったくらいで馴れ馴れしくしてくんじゃねーよ!」
「なっ……?! なにそれ、ひどい!!」

 レモネードは心底鬱陶しそうな表情を浮かべて、絡み付いてきた女をぎろり、と冷たく睨みつけてあしらう。レモネードの有無を言わさない迫力に女は怯み、みるみるうちに泣きそうな表情になって……逃げるようにレモネードから離れて、走り去った。

「…………」

 分かっている。レモネードさんは、私のことをとても、とても大切にしてくれていることを。そして、今の女の人は……過去、レモネードさんと触れ合ったことがある人なのだろうことを。起きてしまったことは変えられないし、どうしようもないことは分かっているのに……。

「……ニコラシカ、」
「あっ……れ、もねーどさ……」

 カツ、ともう何度も聞き慣れた靴音。大好きな低い声に名前を呼ばれて、私はやっと我に返って……気付く。自分の声がみっともなく震えていて……声を出す度に、熱い涙がぼろぼろと溢れていっていることに。

「ッ! お前……!」
「やっ……! ご、ごめんなさ、ちが、ちがうんです!」

 レモネードさんの驚いた表情と声音。だめだ、レモネードさんに心配をお掛けしてしまうことは、あってはいけない。私の身勝手な感情で……レモネードさんを困らせてはいけない。だめなんだ。レモネードさんの前では、笑っていたい、のに……。涙が止まってくれない。こんなお姿、レモネードさんにこれ以上……見られたくない。

「っ……ごめんなさい……! わたし、ちょっと……きゃ!?」
「逃がすかよ」

 レモネードさんに背を向けて走り去ろうとした瞬間、力強く後ろから抱き竦められる。

「やだ……離して、ください……!」
「うるせえ。離さねえし逃さねえ。……どうせさっきの、見てたんだろ」
「!」

 レモネードさん、気づいていたんだ……。だからこうして……私のところにすぐに、駆け付けてくれたのかな。
 大切にされているんだと、分かる。素直に嬉しいとも思う。だけど、それ以上に……こんなにも、みっともないお姿を見せている自分の不甲斐なさに……情けなくなる。

「レモネードさんが、私のことをとても、とても大切にしてくださっているのは知っています。身に余る程の幸せを頂いていることは、分かっているんです……!でも、」

 レモネードさんのお隣に相応しいのは、先程のような……綺麗で、美しい佇まいの人なのではないだろうか。脳裏に、「あんな子どもっぽい子、レモネード様の隣にふさわしくない」と……幾度となく言われてきた言葉が過ぎってしまって……胸が痛くて仕方がなかった。……大切にされていると分かっているのに、不安で心がぐしゃぐしゃになってしまうだなんて……私はいつから、こんなにも我儘になってしまったのだろうか。

「……誰に何言われようが関係ねえ。ニコラシカ、てめえはオレのものだし、オレは……てめえのものだ。だから、オレから離れようとするな」
「レモネードさん……」

 指先を絡め取られる。レモネードさんにはきっと、私が何を考えているのかなんて、お見通しなのだろう。

「……てめえが不安なら、オレにマーキングでもなんでもしやがればいい」
「ひえっ?!」

 意地悪っぽく笑いながら、レモネードさんはさらりと凄いことを仰る。驚きすぎて、私は素頓狂な声しか出せなかったけれど……。レモネードさんが、私に芽生えた独占欲をまるごと受け入れようとしてくれることが、嬉しくて仕方がなかった。
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