短編夢まとめ

 ずたずたにされた、傷だらけの身体。膝を屈しながらも、ニコラシカは大勢の敵を睨みつけていた。険しい顔つきが、ニコラシカがどれほど追い詰められた状況にいるのかを物語らせる。

「ギャハハハ!! やっぱ女の子一人じゃ俺達の相手すんのは無理だったんじゃねーのー?!」
「かっわいそー! その可愛いお顔も傷だらけでさ……抵抗しなきゃ優しくしたのにさあ……」
「ッ……! 触らないでください!!」

 ぬ、と自分の体へと伸ばされる男の手。ニコラシカは気力を振り絞って、その手を振り払うように槍を突き出した。

「イッテエ!! こ、このアマ……!!ちょっとかわいーからって調子乗ってんじゃねえよ!!」
「ぐっ……あ!!」

 槍の穂先が男の手を掠める。痛みを与えられたことに男は激怒し、ニコラシカの腹部目掛けて蹴りを入れた。

「っ……う、」
「今だおめえら!! この女やっちまえー!!」

 下卑た笑い声に、ニコラシカは恐怖を覚える。どうすればよかった? このバンカー達相手に、どう立ち回れば勝てたのだろうか? ……いや、全ては自分の実力不足が招いたもの。悔しい。こんなんじゃ……レモネードさんの傍に、いる資格がない……。
 ぎり、と己の不甲斐なさに唇を噛んだ……その瞬間。ドォン!!と高圧縮された水の塊が、自分に向かってきた大勢のバンカー達を吹っ飛ばした。

「……テメエら、何してやがんだ?」

 地を這うような低い声。ただならぬ殺気に当てられたバンカー達は、その場から一切動けなくなる。

「ヒッ……い……っ!!」

 バンカー達の長である男はガタガタと震え上がる。自分達を見据える青い痩身の男の眼が、あまりにも末恐ろしかった。
 結膜が黒く染まり上がったその眼は、見る者全ての息の根を止めるかのような狂気に満ち溢れている。ビシバシと身体をその場に強制的に縫い付けるかのような重圧に襲われて、逃げたくても一歩も動けない。

「全員纏めてぶっ潰してあの世に送ってやるよ……!」

 バンカー達が最後に見たのは、無数の水の弾丸だった。

「れもねーど、さん…………」

 自分を襲おうとしていたバンカー達は、レモネードの手によって一人残らず一掃された。
 ああ、また自分は……レモネードさんに助けてもらったんだ。……ご迷惑を、掛けてしまったんだ。彼の役に立つことが自分の存在意義なのに、足を引っ張る真似をしたんだ。

「ごめんなさい、わたし……きゃっ?!」

 ツカツカと足早にレモネードが駆け寄ってきたかと思えば、そのままきつく、きつく抱き締められる。

「レモネードさん、汚れちゃいます……私、今血だらけだから……」
「ッ……! んなことどうだっていいんだよ!!このバカ!!どうしてこんな無茶しやがるふざけるな!!」

 ぎゅう、と更にきつく抱きしめられて、息が苦しい。けれど、レモネードの声が僅かに震えていることに気付いて……ニコラシカは何も言えない。
 レモネードさんは自分の事を心配していたのだ。こんなふうに、冷静さを保てなくなるほどに。

「私、レモネードさんに助けられてばかりですね……ご心配ばかりお掛けして、本当に……本当にごめんなさい」
「うるせえ……謝ってほしくなんかねえんだよ!もう 二度とこんな無茶しねえって誓え!!」

 自分に付けられた傷よりも。レモネードさんの心を傷つけてしまったことが……ずっと、ずっと痛くて仕方がない。

「わたし、もっと強くなりますから。レモネードさんがご心配しなくてもいいように……つよく、」

 無茶をしないことへの約束はできないけれど。レモネードさんがこんなふうに取り乱さなくてもいいくらいに、強くなろうと誓うんだ。
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