短編夢まとめ

 肌を突き刺すような冷たい風に吹かれる度に、寒さに身を震わせて過ごした幼少期の冬を思い出す。街行く人々は皆暖かそうな格好をして、互いに身を寄せ合いながら冬を楽しそうに過ごしていた。
 自分には与えられることのない温もりを目の前でまざまざと見せつけられて、どれほど彼らが羨ましくて妬ましかっただろうか。寒さを満足に凌ぐことすら叶わない己の惨めさに、何度打ちのめされそうになったことだろうか。

 冬が到来する度に、オレはらしくもなく過去の感傷に苛まれる。

「夜になったら急に冷え込んできましたね……! 私、思わず自動販売機でコーンポタージュ買っちゃいました!」

 オレのそんな様子を知ってか知らずか、ニコラシカはほわほわと明るい声音で話し掛けてきた。「暖かくてホッカイロ代わりにもなりますし、小腹も満たせるから自動販売機にコーンポタージュがあると嬉しくなっちゃいます! なによりとってもおいしいですし!」なんて、呑気なことをぺらぺらと喋ってくるものだから……おかしいような微笑ましいような気持ちになってきて、先程までの感傷が何だかどうでもよくなる。

「ケッ! 自販のコンポタ一つでそこまではしゃげるなんざ、てめえ本当に平和な奴だな」
「私にとって、冬の楽しみの一つですから! レモネードさんもどうぞ! お身体が暖まりますよ!」

 ニコラシカがオレの手に、先程買ったと言っていたコーンポタージュの缶を握らせてくる。寒さで冷え切っていた掌に……じんわりと温もりが伝わってきた。

「ひゃっ! レモネードさんの手、とっても冷たいです……!」

 ニコラシカはオレの手の冷たさに驚いたのか、アホ毛をぴーん!と直立させる。そうして小さな両手で……オレの手をきゅ!と何度も優しく包み込むように握ってきた。……こども体温故なのか、ニコラシカの手はオレよりもずっと温かい。

「……何してんだてめえ」
「少しでも、レモネードさんの手が暖かくなるようにと思いまして! レモネードさんのこの手は大切な武器でもありますから……! 悴んでしまったりして、バトルに支障が起きてはいけません!」

 大真面目な顔をして、ニコラシカは自分の体温が少しでもオレに移るようにと手を擦り合わせてくる。
 ニコラシカのそんな健気さに、レモネードは自身の心がきゅうと締め付けられる心地になるのが分かった。

「……そんなんで足りるワケねえだろ」
「え? きゃ……っ!」

 ぐい!とニコラシカの手をそのまま掴んで、レモネードは自分の胸元に彼女を抱き寄せる。ぎゅうと抱き締めると、ニコラシカの暖かさを先程よりももっと感じることができた。

「ケケケ……オレさまのこと温めてえならこれくらいはしろよ?」
「ひえ……っ! が、がんばります……!!」

 顔をこれ以上なく真っ赤にさせながら、ニコラシカはわたわたと挙動不審になっている。オレの一挙一動で様々な反応を見せるニコラシカが……今日も愛しくて仕方がない。

 ずっと一人で寒さに耐えるしかなかったあの孤独の日々は、これからニコラシカの暖かさで塗り替えられていくのだろう。

 嫌いだった冬の季節を、悪くねえと思えるようになっていくのだ。
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