短編夢まとめ

※レモニコが付き合う前のお話

 ダイニングテーブルのど真ん中にやたらとデカい七面鳥が居座っている。周りには星型にくりぬかれた人参などが飾り付けられたサラダも施されているし、ピザやらスープやらホールケーキなんかもあって、レモネードは思わず帰ってくるアジトを間違えたのかとたじろぐ。

「お! レモネードやっと帰ってきたのか〜!おせ〜ぞ〜! せっかくのクリスマスの日に何かあったのかと思って心配したぜ〜!」
「テメエはテメエで何があったんだよ。なんだその格好は」

 出迎えに来たヤキソバの方を見るなり、レモネードはぎょっとした。まず見た目が煩い。身体中にやたらとキラキラと輝いてるオーナメントやらポインセチアを身に纏い、頭の天辺には立派な星を飾っている。ツッコむなと言う方が土台無理な話である。というか何やってんだお前。

「何って野暮なこと聞くなよ〜。今日はクリスマスだからよ……オイラがBB7のクリスマスツリー役をやってるんだぜ〜。飾り付けは……マイスイートハニールッコラがやってくれたんだぜ〜!めちゃくちゃイケてるだろ〜? ヘヘッ!」
「クリスマスツリー役」

 得意げに鼻の下を擦りながら、ヤキソバはテレテレと事の経緯を語るがレモネードは最早どこからツッコめばいいのか分からずにいた。クリスマスツリー役ってそもそもなんだよ。つーかお前いくら大木みてえなナリしてるからと言ってそれでいいのか? なんか得意げなのも妙に腹立つな……などなどの言葉達が浮かんでは消えていく。

「あっ!レモネードさんおかえりなさい!おじゃましてます! えへへ……今日はクリスマスなので、はりきってご馳走を作っちゃいました!ルッコラちゃんにも味見のお手伝いをしてもらったんですよ!」
「ニコラシカが作ってくれたお料理、どれもすっごくおいしかったぞーい♡」

 ヤキソバと話していたレモネードの声に気づいたのか、ニコラシカがルッコラを連れて、ぱたぱたと黄色のエプロンを外しながら出てきた。……なるほど。いつもは味気も素っ気もないシンプルなアジトが浮かれた様相になっていたのは、どうやらニコラシカの手によるものだったらしいと、レモネードはようやく合点がいく。

「アホ毛女……てめえの仕業だったのかよ。ったく、浮かれた真似しやがって」
「す、すみません! 私、お友達とクリスマスパーティーをするのに憧れてて……!ルッコラちゃんにお話したら、一緒にやろうと言ってくれたので……思わず気合いれちゃいました!」
「るんるんるーん♪あたいもニコラシカとヤキソバ達と一緒にクリスマスを楽しめるなんて嬉しいぞい! あ、レモネードは興味ないなら部屋に籠もっててもいいんだぞーい!」

 相変わらず辛辣な物言いを繰り出すレモネードに対抗するように、ニコラシカの肩に乗り出したルッコラは舌をべーっ!と出してレモネードに言い返す。

「あ? そうは言ってねえだろ。……オレも暴れてきて腹減ってんだよ。クリスマスパーティーだなんだはどうだっていいが……そこにある料理は食わせてもらうぜ」
「素直にニコラシカの手料理が食べたいって言うぞーい!!ほんとにかわいくないヤツ!!」
「まあまあ落ち着けよルッコラ〜。……ニコラシカはすげえ嬉しそうにしてるんだからよ」

 ぷんすことレモネードに怒るルッコラのことをひょいと抱き上げて、ヤキソバはこそっと耳打ちをする。ヤキソバに促されるままに、ルッコラが横目でニコラシカを見れば……彼女はぱああ!と瞳を輝かせてレモネードを見つめていた。

「レモネードさんともクリスマスを過ごせるなんて……!嬉しいです! 今日のお料理、どれもおいしくできたと思いますので……!たくさん食べてくださいね!」
「ケッ! てめえは相変わらず平和な頭してんな。……まあ、今日くらいは許してやるよ」

 レモネードがクリスマスパーティーに参加してくれることがよほど嬉しいのか、ニコラシカはアホ毛をぶんぶん振り回しながら喜んでいる。
 ……それもそうだ。ニコラシカにとってのレモネードは、この世界の誰よりも愛してやまない存在。そんな彼と共にクリスマスという日を過ごせるとなれば……喜ばない訳がない。ルッコラにとってヤキソバが大切な存在であることと同じなのだろうから。

「何気に、レモネードのやつもクリスマスの日をこんなふうに楽しんだりするの初めてなんじゃね〜かな〜」
「……確かに、今までクリスマス付近のレモネードっていっつも機嫌悪そうだったぞい」

 ヤキソバ達も小耳に挟んだくらいで詳しく聞いているわけではないのだが、レモネードの生い立ちをざっくりと知っている。孤児として過ごしてきた彼にとって……きっと、クリスマスの日はただただ苦い思い出しかなかったのであろうことを察していた。……そんな彼が今年は初めて、微笑ましそうな表情を見せているのだ。

「ニコラシカがいるから、案外悪くね〜って思ってるのかもな〜!」
「ふーん? ……それなら普段からもう少し素直になればいいのに。あーあ!今日はニコラシカにいっぱい甘やかしてもらうつもりだったのに……残念だぞい!」

 またレモネードにニコラシカを盗られたと拗ねるルッコラを、「オイラがいっぱい甘やかすから拗ねるなよ〜」と宥めるヤキソバなのであった。


***

 毎年クリスマスを迎える度に、オレは面白くない気持ちに駆られていた。どこもかしこも浮かれた街並みになるのが気に食わないし、幼少期の頃に何度も迎えては虚しく惨めな気持ちを味合わされた思い出ばかりが蘇るから……嫌いなイベントの一つと言っても過言じゃない。

「レモネードさん! 食べたいお料理があったら言ってくださいね!私、お皿に盛り付けますから! あ、シャンメリーもご用意したのですが……一口いかがですか?」

 だが。自分の周りをちょこちょこと動き回っているこの少女の存在によって……初めて、クリスマスの日を悪くないと思ってしまった。彼女も自分と似たような生い立ちなのであろうに……この日を楽しく過ごそうとしている。ずっとこんなふうに過ごしてみたいと思っていたから、初めて叶えられて嬉しいなんて口にして。

「ケッ、ほんとに……脳天気な女」

 ニコラシカには聞こえていないと分かりつつ悪態を吐いて、レモネードは彼女から受け取った料理を口に運んだ。ずっと昔の自分が……食べてみたいと願っていた味。叶わないと思っていたものが、まさかある日突然こんな形で叶うなんて夢にも思っていなかった。

「レモネードさん、メリークリスマス! 来年はクリスマスプレゼントも用意しますから……楽しみにしていてくださいね!」
「あ? ……好きにしろ。言っておくが、オレは何も用意しねえぞ」

 クリスマスプレゼントなんて、もう既に貰っているなんて……今のレモネードには言えなかった。
 ……ニコラシカが来年も、自分と共にいたいと思ってくれている。それを知れて不覚にも、レモネードは嬉しいと思ってしまった。


END.
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