陽だまりの恋を追いかけて

「あの、すみません!」

 殆ど誰も寄りつくことのないピザの斜塔前。そこに、およそ似つかわしくない溌剌とした明るい声音が響き渡った。
 ピザの斜塔の前に屯する、いかにも柄の悪い山賊集団に声を掛けるなど、とんでもない怖いもの知らずなのだろう。そう思いつつ、パンプキンは声の持ち主の方へと視線をやる。

(うおお……!なんだよめちゃくちゃ可愛いじゃんかYO!)

 眩しい程の金糸の髪に、人懐こそうな笑みを讃えた少女。胸元にバンカーマークが施されているのを見て、彼女も自分達と同じバンカーであることが意外で、驚く。

「……何の用ですか、お嬢さん。このピザの斜塔は我々BB7のもの……手出しをするというのなら、いくら女性といえども容赦致しませんよ……!」

 自分達に声を掛けてきた少女に応対したのは、BB7のリーダーであるマルゲリータ。ピザの斜塔に眠っているであろう大量の禁貨を奪われたくない彼は、同じバンカーである少女に対する警戒心を緩めない。

「あ、よかった!やっぱりこちらが……BB7さんのいらっしゃるところだったんですね!」

 しかし少女は、マルゲリータの放つ確かな殺気など意にも介さず。それどころか、ピザの斜塔自体には興味はなく、BB7という組織そのものに用があるような言い回しをした。
 どういうことだ?と一同が疑問に思うのも束の間。少女の口から、耳を疑うような一言が飛び出した。

「あの、レモネードさんはいらっしゃいますか? 私……レモネードさんに会いたくて、探しているんです!」

***

「……なるほど、事情は分かりました。貴方……ニコラシカさんは、我がBB7の党員であるレモネードくんに用があって、ここまで赴いてきたというのですね?」
「はい、そういうことです! なので、レモネードさんがお戻りになられるまで……しばらくこちらでお待ちさせて頂きますね!」

 金髪赤目の少女……ニコラシカは、ピザの斜塔にまで辿り着いた経緯を細かに話してくれた。
 彼女はどうやら、幼き日に自分を助けてくれた(らしい)レモネードに十年越しの恩返しをする為に、あらゆる手段を駆使して彼を探し、ここまで来たのだという。普段のレモネードを知っているBB7のメンバーからすれば……ニコラシカの話はにわかに信じ難かったが……彼女が嘘を付いているようには、到底思えなかった。

「……つかぬ事を聞きますが、貴方を助けたその方って本当にレモネードくんだったのですか? 同じ名前の別人という可能性はありませんかね……?」
「いいえ! 私がレモネードさんを間違えるだなんてありえません! 間違いなく……BB7の皆さんと一緒に行動してらっしゃる水使いのレモネードさんが、十年前私を助けてくださったその人だと、私の直感が告げているのです!」
「凄い自信だぞーい……」

 アホ毛をぶんぶん振り回しながら主張するニコラシカに、思わず圧倒される。こんないかにも人畜無害そうな、天真爛漫とした少女が……冷酷非道と名高いレモネードのような男を慕っている様子なのが、信じられない。彼が各所で暴れまくっている噂など、それこそごまんと聞いているだろうに……。

「……おい、何の騒ぎだ? つーかそこにいる女誰」
「! レモネードさん!!」

 噂をすれば何とやら。レモネードが戻ってきたらしい。彼の声と姿を視認するや否や……誰よりも早く反応したのは、彼の帰りを待ち望んでやまなかった、ニコラシカその人だった。
 彼女はレモネードの元へと駆けたかと思えば、そのままなんと、大胆にも彼に抱き着いた。

「ッ?! なんだテメエ! 気安くオレに触るな!!」
「レモネードさ〜ん!お会いしたかったです……! 私、ニコラシカは……貴方に恩返しをする為に、ここまでやって参りました!」
「聞けやコラ!!」

 レモネードは一瞬、何が起きたのか理解できなかったのか面食らったような顔をしていたが……すぐにハッと我に返ったらしい。自分に抱き着いてきた彼女を怒鳴りつけるが、ニコラシカはレモネードに会えた嬉しさで心がいっぱいなのか、気にした様子がなかった。

「鋼のメンタルだYO……」
「カカカ……!」

 これは騒がしいことになりそうですね、とマルゲリータがぼやいた一言に、一同は思わず同意する。

 これが、BB7とニコラシカが関わりを持つようになった最初の日の話だ。
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