陽だまりの恋を追いかけて

 ピザの斜塔が崩壊したことにより、一度命を失った筈の俺達は復活していた。第二の生をまた歩むことができるのだと安心していた矢先……今度は、ビシソワーズ兄弟だとかいう、如何にもヤバそうなバンカー達が現れやがったのである。
「マルゲリータ様が消されちまうなんて……俺達これからどうすればいいんだYO……」
「カカカ……」
 我らがBB7のリーダーであったマルゲリータ様は……ビシソワーズ兄弟の実力に目を奪われてしまったがばかりに、一瞬で消されてしまった。俺はクスクスと共に途方に暮れるばかりで、蘇って早々意気消沈するしかない。

「オレは行くぜ。あの5人組にこの星を消されちゃ……この先暴れられなくなるからな!」
 レモネードは相変わらず好戦的で、あの5人組を前にしても全く物怖じしていなかった。ヤキソバとルッコラ……ニコラシカちゃんを連れて、奴等が拠点を構えているというアイスピック山まで赴くつもりらしい。
 お前達はどうするんだ、と。明確に言葉にはしなかったが……レモネードは視線だけこちらに寄越して、言外に俺達に聞いているようにも思えた。
「……俺はやめとくYO。マルゲリータ様を一瞬で消しちまうようなおっかない奴らに……勝てるとは思えないからNA……」
「カ! カカカ!!」
 クスクスの言葉は相変わらず分からなかったが……恐らく、俺の言葉に同意しているのだろうか? いつもレモネードの言うことを素直に聞いている印象が強かっただけに、俺の言葉に同調しているように思えたのが意外だった。
「そーかよ。んじゃ、てめえらとはここでお別れだな。……じゃーな! せいぜい楽しくやるこったな」
 俺達の選択を詰るわけでもなく。レモネードはあっさりと俺達に別れを告げる。……これで、BB7は事実上解散、という形になるのだろう。
「こんなあっさりBB7が解散しちまうなんてNA……」
 元々協調性のあるチームではなかったとは思う。というか団体で行動することなんて本当に稀で、基本は個々人が好きに活動してる山賊集団だった。バンカーサバイバルとかそういう大会がある時だけ集まって好き勝手暴れて……。世の中にあるであろう他のバンカー集団と比べたら、絆だとかチームワークだとかそういう概念は皆無にも等しかった集団だと、パンプキンは認識していた。

 それでも。

「俺……なんだかんだBB7、嫌いじゃなかったんだろうNA」
「カ!」

 心には確かに、一抹の寂しさが残っていた。


***

 BB7が解散して一年以上の月日が経つ。地球はビシソワーズ兄弟の魔の手からどうやら守られたようで、俺は今もこうして元気に第二の人生を歩めている。そして俺はピザの斜塔崩壊後から、何気にクスクスと共に旅を続けていた。

「そういえばめちゃくちゃ今更なんだけどYO、レモネードとニコラシカちゃんってもう付き合ってたりするのかNA」
「カカカ?」
 俺はふと、あの二人のことを思い出す。ニコラシカちゃんがレモネードを探して……当時のBB7がアジトを構えていたピザの斜塔前にまで訪れてきた日のことは今でも忘れられない。正直俺は、あんなに純粋そうで素直な可愛い女の子が、レモネードのような如何にも悪い男を好いているなんて到底信じられなかったし、度肝を抜かされることの方が多かった。レモネードはレモネードで始終ニコラシカちゃんに冷たい態度を取っていたし……どんな気持ちであの二人を見ればいいのかと、何とも複雑な心境だったのを覚えている。

 ……否。本当は俺は、レモネードのことが羨ましかった。俺がバン王に願って手に入れたいと思っている容姿を持ち、その上あんなに一途で可愛い女の子に好かれているのにも関わらず、ツンケンした態度を取り続けるレモネードに対して……苦手意識をどうにも拭えずにいた。一体何が不満だというのかとすら言いたかったレベルだが……あの威圧感を前にして直接言える度胸は、俺にはない。というかこの地球上でレモネードに面と向かって物を言える人間など、本当に極僅かだと思う。

「あの二人、アイスピック山に行く前結構良い雰囲気だった気がするんだよNA……クスクスはどう思うYO」
「カカカ! カカ!」
 言葉は分からないが、クスクスの身振り手振りのニュアンスで俺は彼が言いたいことを何となく察する。多分、あの感じだともう付き合ってると思う!と言いたいんだと思う。
「レモネード、ずっとニコラシカちゃんに冷たかったけど……なんだかんだ嫌いではなかったんだろうなって、俺は思うんだYO」
 今にして思うと、レモネードは本当にどうでもいい人間に対して……あんなふうに構ったりしない。興味ない人間にはとことん興味ないといった態度を取る(俺に対してがそうだった)から、ニコラシカちゃんに好かれて懐かれて……絆されている部分もあったのでは?と、俺は考えていたりする。ナチュラルにイチャついているようにしか見えない時もあったしNA……。

「お? そこにいるのはもしかして……パンプキンとクスクスか〜? おーい、久しぶりだな!」
「あたいたちのこと覚えてる〜?! キャハハ! パンプキンもクスクスも全然変わってないぞーい!」
 聞き覚えのある間延びした声と明るく無邪気な少女の声。背後をくるりと振り向くと……そこには大木の出で立ちをした男とちょこんとその肩に乗っかっているちっこい少女……かつてのBB7の仲間であった、ヤキソバとルッコラがいた。
「ヤキソバにルッコラじゃねーかYO! お前ら生きてたんだNA……」
「どういう意味だぞい! 地球を守りにいったあたい達に少しは感謝の気持ちを表して……禁貨を寄越すんだぞーい!!」
「会って早々それかYO! 見た目に反して本当にがめついなお前!! というか熱ッ!! 火を吹くんじゃねーYO!!」
「カカカ!!」
 ぼっ!と口から火の粉を出してくるルッコラを軽く叱咤しつつ……俺は内心ほっとしていた。やっぱり、基本は禁貨を取り合う敵同士のバンカーとは言え……短くない期間を過ごした知人達が生きている事実に、安心感を覚える。バンカーバトルで命を落とす人間が多い世の中だから、そういう話を聞くと……仕方がないとはいえやっぱり気が滅入るのである。
「そういえばパンプキン、聞いたか?」
「? 何をだYO」
 唐突にヤキソバから振られた話題。次の瞬間から飛び出た単語に……俺は今日一の度肝を抜かされることとなる。

「レモネードとニコラシカ、結婚したんだってよ〜。オイラ達にも教えてくれればいいのに、水臭いよなあ〜!」
「…………ハ?! ちょ、ちょっと待つYO!! それ、マジで言ってんのかYO?!」

 ヤキソバの口から聞かされた衝撃の事実に、俺の頭は追いつかない。寧ろ置いてきぼりである。
 エ? だって一年前はまだ全然付き合うとかそういう次元じゃなかったよNA? レモネードの奴、ずっとニコラシカちゃんに対して「うぜえ」「うるせえ」「気安く触るな!」の塩対応ローテーションしてたよNA? 確かにピザの斜塔がなくなっちまった後のレモネードは、ニコラシカちゃんに対して優しくなったような気がするな〜とは思ったけど……それがいきなり結婚?!

「あたい達がそんなくだらない嘘吐くわけないぞーい! ニコラシカ、左手の薬指に指輪してたし……レモネードの奴、全然教えてくれないんだから! ニコラシカの花嫁姿独り占めだなんてずるいんだぞい!!」
「まあまあ〜。今度ちゃんとした結婚式挙げるって話だしよ、その時を楽しみにしようぜ〜。ってなわけで、パンプキンとクスクスもどうせなら来てくれって話。ニコラシカちゃんも式挙げるならおめーらのこと招待したいって言ってたしな!」
「て、展開が早すぎて着いていけてねえYO!!」
「カカカ……!!」

 付き合ってるどころかもう結婚してたなんて、あの二人どんな速度で進展してんだYO……!!
 ……まあでも、あのレモネードも人の子ではあったんだなって地味にほっとする。やっぱりなんだかんだ、ニコラシカちゃんの一途さに……彼も惹かれるものがあったのだろう。

「というかニコラシカちゃん……あのレモネードの心を掴むなんて、やっぱりあの子只者じゃねーんだYO……」

 ニコラシカちゃんがただ可愛いだけの女の子じゃないということを、俺は改めて実感させられた。

 
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