陽だまりの恋を追いかけて

「レモネードさん!」

 弾んだ声音で、ニコラシカがオレの名を呼ぶ。真っ白なシーツをヴェールに見立てて、頭に纏う彼女の姿は、さながら花嫁のようだった。

「えへへ……お嫁さんになった気分です!」

 寂れた教会。ところどころがひび割れているステンドグラスから漏れる月光が、くるくるとはしゃぎまわるニコラシカを照らしている。金糸の髪は月の光に濡れていて、どこか幻想的にすら見えるのは──こいつに惚れてしまっているが故なのか。

「ケッ……。おい、左手貸しな」
「へ? わあ……っ?!」

 ぐん、と強引にニコラシカの腕を引っ張り、自分の元へと抱き寄せた。そして、左手の薬指を口の中に突っ込んで、軽く噛み付く。

「ん……、指輪なんて上等なモンは用意してねえからな。今はそれで我慢しとけ」
「は、はわわ……!!」

 我ながら何をやってるんだか、と照れ臭くなる。けれど、少なからず結婚式とやらに憧れているニコラシカを見ていたら──例えごっこ遊びだったとしても、多少はそれっぽくやってやりたいだなんて思ってしまったのだ。
 きっとこいつは、オレに惚れなければ──世間一般の女どもが憧れている、まともな花嫁になれただろうに。オレを選んでしまったばかりに、ニコラシカは恐らく永遠に、憧れの花嫁になれることなんて、ないのだ。

「私は今、世界で一番幸せな花嫁さんです!」

 ふにゃり、と甘くはにかみながら、ニコラシカは愛しそうに歯形の着いた薬指を撫でている。

「……大袈裟な奴」

 こいつがあまりにも幸せそうに笑うものだから、オレもつられて笑ってしまう。
 ニコラシカをまともな花嫁になんてしてやれない。だが、それでもオレは、こいつを手放す気なんて微塵もないのだ。

「神に誓うなんざガラじゃねえが──愛してやるよ。オレなりのやり方で、これから先ずっと、な」
 ぶっきらぼうにそう言って、奪うように口付けた。
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