陽だまりの恋を追いかけて
さむい。さみしい。どうしてだれも、わたしのそばにいてくれないのだろう。
私の目の前を通り過ぎていく、幸せそうな家族連れ。おとうさん、おかあさんって……満たされた笑顔を浮かべる、私と同い年くらいの女の子。……いいなあ、羨ましいなあ。きっと、あの子は、屋根のある暖かな家も、美味しいご飯も……なにもかもがあるんだろうなあ。私の目の前を通り過ぎていく人達は、私にはない「当たり前」を、持っているんだ。
……私はどこから来たの?どうして捨てられてしまったの……?どうして、どうして……考えても仕方のないこと、答えの出ない問い掛けをすればするほど、視界が滲んでいく。
「あー!見ろよあれ!!あの不気味なやつ、魔女じゃねえ?!」
「ほんとだー!はやくやっつけようぜ!!」
私を視界に入れた人達は、皆こうだ。けたけたと無邪気な笑みを浮かべて、複数の少年達が私に向かって拳を向けてこようとする。残酷なことを残酷と思っていない、無意識の悪意。私にはそれが、たまらなく怖くて仕方がなかった。
「い、いや……!やめて、ちがう、わたし、魔女じゃないから……やめてぇ!」
「うわっ?!」
心の底から叫んだ。怖くて怖くて仕方がなかった。……そうしたら、私の手には、槍が握られていたんだ。
「な、なんだ……?!あいつの手から、槍が出てきたぞ?!」
「やっぱりアイツ、本物の魔女なんだ……!」
「ころされる!!呪われるー!!」
私の手に握られた槍を見て、少年達は先ほどとは打って変わって、世にも恐ろしいものを見たような表情になって一目散に走り去った。
……そう。私は、ギリギリのところで助かったんだ。だけど……。
(呪ったりなんて、殺したりなんてしない。わたし、魔女なんかじゃないよ……!)
でも、私がそう主張したところで、一体誰が信じてくれるのだろうか。
……そもそも、普通の人間だったら。何もないところから槍を出すことなんてできない。皆が言うように、私は魔女なのかな? だから、私は捨てられちゃったの?
「さみしい……さみしいよ……」
槍をぎゅ、と握り締める。私は路地裏の隅っこで、誰にも見つからないように……声を押し殺して泣いた。
***
「おい、いつまで寝てんだテメエ」
「あいたっ?!」
額をびしっ、と小突かれる痛みで目が覚めた。それによって、私は眠りの世界から掬い上げられる。……ああ、私、とっても昔の……夢を見ていたんだ。
「起こしてくださってありがとうございます、レモネードさん!」
「……ん、」
体を起こして、気づく。私の手が、レモネードさんの手を……強く握っていたことに。
「あ……! ご、ごめんなさい! もしかして私、寝てる間にレモネードさんのこと引き止めてしまってましたか……?」
私が仮眠を取っている間、多分レモネードさんは私の様子を見に来てくれたんだろう。……そして、私はその間にレモネードさんのお手を握って、引き止めてしまったのではないだろうか。
「……お前、随分と魘されてたみてえだったから見てただけだ」
「え……、」
レモネードさんのアイスブルーの眼が、私をまっすぐに射抜いている。
「……てめえは、オレの為にその槍振り回してりゃいいし、オレの傍に黙っていればいいんだよ」
だから泣くんじゃねえって、私の頬を撫でるレモネードさんの手は、とっても優しかった。
……レモネードさん、私と出逢ってくれて、本当にありがとう。いつも、私の心を救ってくれる貴方の為に、私はこれからも生きていきたい。
魔女の私は、もういない。
私の目の前を通り過ぎていく、幸せそうな家族連れ。おとうさん、おかあさんって……満たされた笑顔を浮かべる、私と同い年くらいの女の子。……いいなあ、羨ましいなあ。きっと、あの子は、屋根のある暖かな家も、美味しいご飯も……なにもかもがあるんだろうなあ。私の目の前を通り過ぎていく人達は、私にはない「当たり前」を、持っているんだ。
……私はどこから来たの?どうして捨てられてしまったの……?どうして、どうして……考えても仕方のないこと、答えの出ない問い掛けをすればするほど、視界が滲んでいく。
「あー!見ろよあれ!!あの不気味なやつ、魔女じゃねえ?!」
「ほんとだー!はやくやっつけようぜ!!」
私を視界に入れた人達は、皆こうだ。けたけたと無邪気な笑みを浮かべて、複数の少年達が私に向かって拳を向けてこようとする。残酷なことを残酷と思っていない、無意識の悪意。私にはそれが、たまらなく怖くて仕方がなかった。
「い、いや……!やめて、ちがう、わたし、魔女じゃないから……やめてぇ!」
「うわっ?!」
心の底から叫んだ。怖くて怖くて仕方がなかった。……そうしたら、私の手には、槍が握られていたんだ。
「な、なんだ……?!あいつの手から、槍が出てきたぞ?!」
「やっぱりアイツ、本物の魔女なんだ……!」
「ころされる!!呪われるー!!」
私の手に握られた槍を見て、少年達は先ほどとは打って変わって、世にも恐ろしいものを見たような表情になって一目散に走り去った。
……そう。私は、ギリギリのところで助かったんだ。だけど……。
(呪ったりなんて、殺したりなんてしない。わたし、魔女なんかじゃないよ……!)
でも、私がそう主張したところで、一体誰が信じてくれるのだろうか。
……そもそも、普通の人間だったら。何もないところから槍を出すことなんてできない。皆が言うように、私は魔女なのかな? だから、私は捨てられちゃったの?
「さみしい……さみしいよ……」
槍をぎゅ、と握り締める。私は路地裏の隅っこで、誰にも見つからないように……声を押し殺して泣いた。
***
「おい、いつまで寝てんだテメエ」
「あいたっ?!」
額をびしっ、と小突かれる痛みで目が覚めた。それによって、私は眠りの世界から掬い上げられる。……ああ、私、とっても昔の……夢を見ていたんだ。
「起こしてくださってありがとうございます、レモネードさん!」
「……ん、」
体を起こして、気づく。私の手が、レモネードさんの手を……強く握っていたことに。
「あ……! ご、ごめんなさい! もしかして私、寝てる間にレモネードさんのこと引き止めてしまってましたか……?」
私が仮眠を取っている間、多分レモネードさんは私の様子を見に来てくれたんだろう。……そして、私はその間にレモネードさんのお手を握って、引き止めてしまったのではないだろうか。
「……お前、随分と魘されてたみてえだったから見てただけだ」
「え……、」
レモネードさんのアイスブルーの眼が、私をまっすぐに射抜いている。
「……てめえは、オレの為にその槍振り回してりゃいいし、オレの傍に黙っていればいいんだよ」
だから泣くんじゃねえって、私の頬を撫でるレモネードさんの手は、とっても優しかった。
……レモネードさん、私と出逢ってくれて、本当にありがとう。いつも、私の心を救ってくれる貴方の為に、私はこれからも生きていきたい。
魔女の私は、もういない。