陽だまりの恋を追いかけて

「水のレーザー!」

 水の剣がまっすぐに、スズキさんの胸を貫く。響き渡る断末魔と共に、スズキさんの体は大浴場へ沈んでいった。

「レモネードさん?! どうして……!」

 コロッケくんと共に、私は驚く。だって、スズキさんは……レモネードさんの本来の家族だ。レモネードさんがずっとずっと、憧れて、欲してやまなかったであろう家族の手を……振り払ったことに驚きを隠せなかった。

「ケッ、言ったはずだぜ! オレの家族はこのチェリーだけ!! オレとチェリーがずっと生きてきたこの星を…、そう簡単にこわさせるわけにはいかねーんだよ!!」

 それにな、と。レモネードさんは私の方に視線を向けて、付け加える。

「……オレに構ってくる奴なんて……ニコラシカ、テメエ一人で充分なんだよ」
「……え?」

 それは、どういう意味なんだろう。あまりにもいろんなことが起こりすぎて、私は即座に、レモネードさんが言った言葉の意味を噛み砕けなかった。一つだけ分かったのは、なんだか、とても破壊力の高いことを、言われたような気がするということだけ。

(それは、どういう意味で、)

 今は聞ける状況ではないことは分かっていたから、私は口を噤む。
 レモネードさんとコロッケくんが向き合う。どちらがこの部屋を勝ち抜けるかの戦いが幕を開けようとしたところで……ぶわり、ととんでもない殺気を感じた。

「――ッ?!」

 ざぱっ!と這い上がってくる水音。背後を振り向けばそこには、狂乱の色を宿したスズキさんの姿があった。

「ぼくはまだくたばっちゃいないのにゃ! お前らを消し去るまではにゃ〜!!」

 とんでもないエネルギーが、スズキさんのステッキに集まっている。それは、残る力全てを込めた……スズキさんの手を振り払ったレモネードさんに向けた、最期の一撃なのだろうということが分かった。

(レモネードさんをお守りしなきゃ……!!)

 でも、どうやって? 『完・運命ステッキ』はあまりにも強大なパワーすぎて、今の私の力ではとてもじゃないが抑えられない。
 ……なら、私の身を呈して、庇うしか……!

「チェリー、お前は邪魔だ! どいてろー!!」
「え……?! きゃ!!」

 駆け寄ろうとした瞬間。チェリーさんがコロッケくん目掛けて放たれる。私は後ろに倒れ込んできたコロッケくんを急いで受け止めて、その場で尻餅を付いてしまった。

「チェリー、今まで本当に楽しかったぜ!!」
「レモネードさ……!」

 レモネードさんは、不敵に笑っていた。彼に迫りくる攻撃が、スローモーションのように見える。今すぐ彼の元に駆け寄りたいのに、脚がうまく動いてくれない。

「……ニコラシカ、」

 じゃあな、と。レモネードさんの唇が動いた。それを最後に、レモネードさんの姿が、跡形もなく消えてしまった。

「れもねーど、さん」

 現実味がなかった。目の前で確かに、レモネードさんがいなくなってしまったのを見たのに。私は、ただその場に呆然と座り込むだけで。
 ……不敵に笑い掛けてくれた彼が、どこにもいない現実を、受け止めきれない。

「……ニコラシカ、お前はどうするんだ?」
「え……? あ、」

 コロッケくんが、心配そうに私のことを覗き込んでくる。きっと彼は、グランドパーティーへ進みたいのか否かを、私に問うているのだ。

「……私は、皆さんのお帰りをタロさんとテトさんとお待ちします! コロッケくん、メンチさん、チェリーさん……どうか、レモネードさんと私の分まで戦って、そして、勝ってください! 私達が生きてきたこの星を……壊させないでください……!」

 私は必死に笑う。溢れそうな涙も堪えて、コロッケくんに意思を伝えた。
 ……泣いちゃだめだ。こんなところで泣いたら、レモネードさんにうじうじするなって怒られちゃうから……。

「……うん! 任せて、おれ、絶対に勝ってくるから!」

 部屋から走り去るコロッケくんを、私は見送る。
 ……コロッケくん、どうか。どうかレモネードさんが生き抜いて、守ろうとしたこの星を……壊させないで。私にできることはもう、彼の勝利を祈るしか、ない。

(レモネードさん、ごめんなさい。私、貴方の命をお守りするために生きてきたのに、)

 ぽた、と。手の甲に雫が落ちていく。それは、堪えきれなかった涙。私の生きる希望で、大好きで、最愛の人を失ってしまった悲しさと、何もできなかった自分の無力さに……私は、その場に蹲って、情けないくらいにわんわんと泣いた。
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