陽だまりの恋を追いかけて

 ピザの斜塔が崩れ落ちた。悲しみと怨嗟で渦巻き、その果ての戦いで消えていった筈のバンカー達は皆蘇った。私もその一人だ。私は蘇って早々、愛するあの人の姿を探す。

「レモネードさん!」

 青い痩身。鋭く凛々しいその人の姿を、私が見間違える筈がない。見つけたその瞬間に、私の唇はその人の名前を紡いでいた。

「……お前、」
「よかった……!また、お会いできてよかったです、レモネードさん……!!」

 ぴた、と歩を進めていた足を止めて。レモネードさんは私のことを待っていてくださった。私を見つめるその表情は、どこかバツが悪そうな印象を受ける。

「……ケッ、よかったって何がだよ。てめえは……あんな目に合ってもまだオレと関わる気なのか?」
「私は命ある限り、レモネードさんのお役に立ちたいのです! ……それに、大好きな人とまた会えたんです、よかったって思うのは、当たり前のことですよ!」

 私の人生において、レモネードさんは大切な存在なのだ。何があっても一緒にいたい。レモネードさんが楽しく生きる為の、お手伝いがしたい。……何よりも、好きだから一緒にいたいのだ。この想いは、未来永劫変わらない。

「……てめえには恥ずかしげってものはねえのかよ」

 はー、とレモネードさんは呆れたように、長い溜め息を吐いた。でも、その表情は……今まで見てきた中で一番、穏やかなもののように感じられる。以前までの、刺々しい雰囲気が和らいでいるような……そんな気がするのだ。

「……オレはやりてえように暴れ回るだけだ。着いてきたきゃ勝手にしろ、後悔しても知らねえし、てめえがどうなろうが知ったこっちゃねえけどな」
「……! はい!ありがとうございます、レモネードさん!」
「いちいち声デケエんだよてめえ!」

 ぶっきらぼうな物言いだけれど、心なしか以前のような冷たさは感じない。……思い上がりかもしれないけれど、心の距離が縮まったような気がして。私はとっても、嬉しくなった。

***

「ビシソワーズ兄弟、ですか……」

 コロッケくんが呼び出したバン王を、一瞬にして攫っていった……謎のバンカー達。タロさんが言うには、彼らの目的はこの地球という星を壊すことらしいけれど……どうして、それを望むのかが分からない。だって、壊してしまったら……自分達の命も、潰えてしまうというのに。

「ケッ、ビシソワーズ兄弟だかなんだか知らねえが……この星を壊すだあ? んなことさせっかよ」

 ピザの斜塔から蘇って早々、とんでもない事が起ころうとしているのは火を見るより明らかだった。一連の騒動を目の当たりにして、レモネードさんはビシソワーズ兄弟が消えた方の空間を不敵な笑みで睨み付けている。
 その一連の仕草で、レモネードさんはあの兄弟達と戦う気なのだということが分かった。
 ……正直な話、私の今の実力で……あの兄弟達と戦って、勝てるビジョンは見えない。彼らが放つオーラはあまりにも強大で、辛勝することすらままならないだろうということが……私の直感が告げている。
 ……レモネードさんの力になりたい。でも、足手まといにだけは絶対になりたくない。バンカーとして未熟者な今の私が、彼の傍にいたいと願う気持ちを貫き通すことは……迷惑であり、我儘になるのではないだろうか? 彼と共に戦いたい、力になりたいのに……明らかに私は実力不足なのだ。胸のうちに渦巻く葛藤が、「私もご一緒にさせてください!」と、その一言を宣言することを躊躇わせる。

「何ぼさっとしてやがる。……どうせ、てめえも一緒に来るんだろ? ニコラシカ」
「……え?」

 レモネードさんはさも当然のように、私の方へ視線を移していた。告げられた一言に、私は思わずぽかん……としてしまう。

「わ、私もご一緒にしても、いいんですか……?」
「あ? 着いてきたそうな顔しといて何言ってんだお前。……オレのこと追いかけようとして、変なとこで迷子にでもなられたら面倒なんだよ」

 とっとと行くぞ。それだけ言ったかと思えば、レモネードさんは私の腕を引いて歩き出す。私はそれだけで、さっきまでの葛藤が吹き飛んでしまうくらい嬉しくて……自分でも表情が綻んでしまったことが分かった。

「レモネードさん、私達が生きてきたこの星……絶対に守りましょうね!」
「うるせえ。いちいち当たり前のこと言ってんじゃねーよ!」

 私の力が、どれだけ貴方の役に立てるかは分からないけれど……。それでも、レモネードさんは私の事を信じてくれているんだ。そう思うだけで、私の心はこれ以上ないくらい、勇気付けられた。
 私達は、氷の中の戦場へと赴く。
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