陽だまりの恋を追いかけて

『ニコラシカのことすらも、信じられないというのか』

 うるせえんだよ。てめえに言われる筋合いなんかねえ。……他人のことなんか信じたって、裏切り裏切られるの繰り返しじゃねえか。だったら、最初から自分の力だけを信じるのが……オレにとっては当たり前だったんだ。
 てめえみてえな、仲間だなんだと……恵まれた環境でぬくぬく育ってきた王子様に何が分かる。あの女といい、ロクに目も見えてないくせにオレをまっすぐに見据えてくるこの王子様野郎といい……良い子ちゃんぶられるのに反吐が出そうだ。
 どれだけの醜い感情をぶつけても、叩きのめしてやろうとしても……全く折れない目の前の存在が、オレの心をこれ以上なく苛つかせる。
 認められるものか。今更認められるワケがねえんだよ。あの女を……ニコラシカを見捨てた以上、オレはオレの生き方を貫き通す。目の前の「どうしようもなく正しい存在」に、敗北するだなんて許されない。引き返せない。膝を折ることは許されない。
 ……だが、それは。オレにとっての希望で、相棒であり、唯一の家族である……チェリーが倒れたことで、その足場は脆く崩れ去ることとなる。
 ずっと共に生きてきた存在の、傷だらけの無惨な姿は……今まで耐えていた感情を、決壊させた。心がバラバラに砕け散りそうになる。
 ……それでも。オレは自分の進む道を、貫き通す。脚を止めるなんざ、敗北を認めるなんざ許されない。
 大切で、希望であるチェリーすらオレは見捨てて。銀色の王子に向けて、水の刃を突出す。それが……オレにできる、オレが示す生き方だった。
 ……身体は崩れ落ち、オレの意識は闇に落ちていく。オレは、自分の生き方を最後まで貫き通した。アイツを倒すことは、叶わなかったが……不思議と、心は晴れたような気がしていた。
『レモネードさん』
 脳裏に過るのは、最後まで笑顔だったあの女……ニコラシカの姿。本当にバカな奴。オレと出逢って、オレのことを好きになったせいで……命を落とすなんて本当にバカげている。何度も何度も突き放したのに、強く当たったのに、あいつはただの一度もめげなかった。

(ニコラシカ、オレは)

 お前に、愛していますと言われる度に辛かった。お前の心に、想いに一切の曇りなんてなく、真実なのだと思い知らされる度に。自分の心が少しでも揺らぎそうになるのが耐えられなかった。今までの自分を崩されるのが嫌だったんだ。
 だから、とっとと幻滅して、オレから離れてくれれば良かったのに。お前が、『ありのままのレモネードさんが好きです』なんて言って笑うから。オレは。

(……次があるなら、その時は)

 お前のその気持ち、認めてやらないこともない。お前が次に会ったその時も、オレへの気持ちが変わらないと言うのなら……受け止めてやる。
 そんな戯けた事を思ったのを最後に、オレの意識は完全に途絶えた。
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