陽だまりの恋を追いかけて

「ニガリさんこんにちは! えへへ、今日もまたお邪魔しちゃいますね!」
 人懐こい子犬を思わせるような笑みを浮かべながら、黄色い少女……ニコラシカは私に明るく挨拶をしてきた。こく、と軽く会釈をするだけで、言葉を発しようともしない私を特に気にすることもなく。「今日はですね、ルッコラちゃんと一緒にお茶をしようと思ってマフィンを作ってきたんです!」と言って、持ってきていたらしい紙袋から、これまた可愛らしいラッピングが施されたマフィンを取り出し始めた。それを、彼女は私の前に差し出す。
「ニガリさんもよろしければお一つどうぞ! 甘さは控えめの抹茶味にしてみましたので……もしお口に合わなければ捨ててしまっても大丈夫です!」
「……何故私にもわざわざ?」
 バンカーからの施しなどいらぬ、とは言えなかった。受け取りつつ、私は少女に疑問をぶつけてみる。ニコラシカにとって、私に話し掛けたり、何かを差し入れたりするメリットなど無いはずだ。どうしてこんなことをするのか……理解ができなかった。
「? どうしてと言われるとうーん……ニガリさんにもいつもご迷惑をお掛けしてると思いますし、感謝の気持ち、というものです! 私の自己満足になっちゃいますが……もしかして、嫌でした?」
「……そういうわけではない。ただの興味だ。……これはありがたく、頂いておこう」
 そう答えると、ニコラシカは「えへへ、これからもよろしくお願いします!」とまた明るく笑った。……少々騒がしい少女だと思いはするが、やはり基本的に礼儀正しいのだろう。私が今まで見てきたバンカー達とは、どこか異質に思える。
 ……だからこそ、私は未だに信じられない。このような少女が、あんなにも冷酷非道と名高いレモネードのような男を好いていることが。
「あっ……! レモネードさん!」
 青い痩身が見える。私よりもいち早く、その男の存在に気づいた彼女は、きらきらと赤い瞳を輝かせながら駆けていく。
 どれだけ冷たくあしらわれ、ツンケンとした言動を取られたとしてもめげない少女。私はそんな彼女に対して……どんな気持ちで接するべきなのか。未だに分からないでいる。
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