陽だまりの恋を追いかけて

※パンプキン視点

 突然だが、BB7の食事事情は物凄く雑である。いや、そもそも一同顔を合わせて共に食事をするイベント自体が滅多に発生しないのだが。
 パンプキンが把握する限りでは、自分を含めたBB7のメンバー全員……恐らくまともな料理などしたことがないだろう(我らがBB7のリーダー位置であるマルゲリータに至ってはそもそも食事など必要ないだろうし)。
 その為、極稀に全員で食事をするとなった場合でも、食卓に並ぶのはそこら辺のコンビニで買ってきた各々が食べたい弁当やら統一性のない惣菜ばかりだ。個々人の事情に基本あまり干渉しないBB7の姿勢が食卓に出ているとも言えよう。

(正直、誰かの手作りの飯が恋しいんだYO……)

 パンプキンはメンバーの中では唯一、一般家庭で育ってきたバンカーだ。バンカーとして旅立ち、自分の面倒は自分で見るようにしてきたが……自炊だけはどうにも面倒で、コンビニ弁当やら外食やらで済ませがちだったのである。BB7に入ってからも、この食事事情は全く変わらずだったので……家庭の味を知る彼からすれば、だんだんとそれらの味が否応なしに恋しくなるのである。

「ヤキソバ〜!!今日のご飯何食べるぞい? あたい、この間ヤキソバに連れて行ってもらったあのお花畑のお花が食べたいんだぞーい♡」
「おいおいルッコラ、花もいいけどよ〜そればっかじゃ栄養偏っちまうぜ〜? どうせならもうちょい良いとこに飯食いに行こうぜ、なあレモネード!」
「あ? しゃーねーな……たまには付き合ってやるよ。ヤキソバてめえ奢れよな」
「へいへーい。ま、オイラの財布だからそんな高えもんは期待するなよな〜」

 ヤキソバ達はこれからどうやらアジトを出て外食しに行くようだ。……毎度の事ながらに思うのだが、あのおっかないレモネード相手によく怯まずにヤキソバ達は付き合えるなと、パンプキンは思わざる得ない。

「俺も飯適当に買いに行くか……クスクス、お前はどうすんだYO?」
「カカカ!」
「じゃあ一緒にコンビニまで行くYO。アイスくらいは奢ってやるZE」

 相変わらず何を言っているのかは正直分からないが、恐らくどうするか決まってはいないだろう。クスクスは他のメンバーより個人的には付き合いやすいので自然と絡みに行ってしまう。重い腰を上げて、自分達も外に出掛けようとした……まさにそのタイミングであった。ピンポーン、とアジトの呼び鈴が鳴る。

「こんばんは! あの、お邪魔しても大丈夫でしょうか……?」
「あー!!ニコラシカだぞーい!!」

 最早聞き慣れてしまった可愛らしい声。BB7という山賊集団にはおよそ似つかわしくない少女――ニコラシカちゃんの声にいち早く反応したのは、彼女にやたらと懐いているルッコラである。ヤキソバの肩から降りて、とてとてと玄関先まで走って彼女を出迎えに行く。るんるんと扉を開けると、すぐにニコラシカちゃんの足元にすりすりと抱き着いていた。

「ニコラシカ〜!! いらっしゃいだぞい!今日はもう来てくれないかと思ってたぞーい!!」
「わっ! えへへ……お邪魔しますルッコラちゃん! 今日は少しお手伝いに行っておりまして……その帰りに皆さんのアジトに寄らせていただきました! レモネードさんのお顔が見たかったというのが……一番の目的なんですけどね!えへへ!」
「……ケッ! てめえは相変わらず暇なのか? ……つーか、なんだその荷物」

 ツンケンとした物言いをしつつ、ニコラシカちゃんが来たと知ればすぐに駆け付けている辺りレモネードは本当にある意味では分かりやすいんじゃ……?と思わなくもない。そして、彼が指摘した通り……ニコラシカちゃんの手には、何やら大きなビニール袋がいくつも提げられている。

「こちらですか? 実は今日お手伝いをさせていただいた人から……お礼としてたくさんのお野菜やお肉を頂いたのです! もしよろしければ、皆さんにおすそ分けしたいな〜って! 冷蔵庫などお借りしてもいいですか?」
「……それは別に構わないと思うが、我々の中に自炊する人間などいないぞ」

 今まで何も喋らず、気配すら消していたニガリが突如として現れて……正直めちゃくちゃビビった。いたんだ、アンタ……。というか、ニガリが誰かに話し掛けるなんて珍しい。一日一緒にいることがあってもその声を聞ける日など本当に極稀なのに。ニコラシカちゃんの厚意を俺達が無碍にする可能性を省みての発言なのかな……いやまさかな。

「そうなのですか? ……あの、もし差し支えなければ……私、今日もらった材料を使って、皆さんにお料理作りますが……いかがでしょうか……?」
「……え?! ニコラシカのお料理?! あたい、それ食べたーい!!」

 ニコラシカちゃんからのまさかの提案に俺達が目を丸くしている間、ルッコラは大はしゃぎして飛び跳ねる。

「でも、もしこれからお食事するご予定があるのでしたら日を改めますが……」
「それはまた今度でいいぞい! ねーヤキソバ! ニコラシカのお料理、食べたいよね〜!!」
「そうだなー。せっかく作ってくれるっていうなら……ごちになっちまうか! サンキューな、ニコラシカ!」
「お、俺もニコラシカちゃんの料理食べたいYO!な、クスクス!」
「カカカ!!」

 ルッコラとヤキソバはすっかりニコラシカの手料理をご馳走になる気満々である。かくいう俺も、ニコラシカちゃんみたいな可愛い子の手料理が食えると聞いて物凄くウキウキしていたのだが。

「いえいえ! 私の勝手な提案ですのでお気になさらず……! あの、レモネードさんは……いかが致しますか? 手作りのお料理……嫌でしたらお惣菜を買ってきますが……」
「はあ? ……別に食えりゃ気にしねえ。作りたければ勝手にすりゃいいだろ」
「……! はい! 頑張って、腕によりをかけてお作り致しますね!」

 いやしかし。俺は本当にレモネードという男が羨ましくて仕方がない。こんな健気で可愛い女の子を前にして、始終素っ気ないツンケンした態度をとっても、この男は許されるのである。
 素直に食べたいって一言が言えねえのかYO……なんてうっかり口を滑らせようものなら、俺は水のリボルバーであっという間に蜂の巣にされるであろうことが目に見えているので、絶対に口にはしない。命が惜しいからNA……。

「それでは、今日は定番の……カレーを作りたいと思います! 師匠直伝のレシピも頭に入っていますので……失敗することもないと思います!」

 そう言って、ニコラシカちゃんはぱたぱたと……今までBB7のメンバーが誰一人として使ったことのないキッチンへと向かっていく。「あたいも何かお手伝いする〜!!」なんて、ルッコラも駆けていく様子を……ヤキソバ達はどこか微笑ましそうに見つめていた。

「あ! そういえばマルゲリータさんは何を口にされてますか? カレーは食べられるのでしょうか……?」
「あ? あいつにはオリーブオイルでも掛けときゃいいだろ。ケケケ!」

 正しく火に油を注ごうとしているレモネードを、止める度胸など俺にはないのである。


***


「見てみてヤキソバ〜!! あたいのニンジン、お花型にしてもらったんだぞ〜い♡ すっごくかわいいカレーにしてもらっちゃったぞい!!」
「おー!よかったなルッコラ!! ニコラシカ、器用なんだな〜」
「えへへ〜、ありがとうございます! 師匠に教えてもらった技を駆使させていただきました!」

 ルッコラは自分専用に装ってもらったカレーを前に上機嫌である。まさかBB7に属していて、こんな微笑ましい会話を聞くことになるなど夢にも思っていなかった。しかも美味しそうなスパイシーな香りがこのアジトに漂うなど……と、パンプキンは妙な感動を密かに噛み締める。ちなみに俺達のカレーのニンジンはオーソドックスな星型にくり抜かれていた。

「へへーん!いいでしょレモネード〜!!あたいのカレー、とーっても可愛いお花型のニンジンがあるんだぞい!」
「いちいち張り合ってくるんじゃねえよチビ!うぜえな!」

 よほど嬉しかったのか、ルッコラはレモネードにまで見せびらかしていた。……でも、俺はさっきチラリと見てしまったので知っている……。レモネードにと装われていたカレーのニンジンは……ルゥで覆われていて分かりにくかったが確かに、ハート型にくり抜かれていたものだったことを……。

「チャラチャラしたもの入れてんじゃねえぞこのアホ毛女が」
「えへへ……レモネードさんのことが好きと今日もお伝えしたかったので!」
「うぜえ」

 ニコラシカちゃんの額を軽く小突いて、レモネードは照れ隠しかのようにがつがつとカレーを食べていた。……いつもは栄養補給食品かサンドイッチのような軽食ばかりを口にしてるイメージしかなかったから、その姿に物珍しさを感じる。

 BB7では本当に珍しい、賑やかな食事。その中で久しく食べる、他人の手料理は……パンプキンにとっては懐かしく、暖かな味がした。

「カカ!カカカ!!」
「ああ……めちゃくちゃ美味しいYO!」

 クスクスと共に零した、素直な感想。それを聞いていたニコラシカは「ありがとうございます! おかわりもありますので、足りなかったら言ってくださいね!」と……本当に嬉しそうに笑っていた。

 それから定期的に、ニコラシカがBB7のメンバーに料理を作ってくれるようになったのは言うまでもない。


「ちょっと! いくら私が食事を必要としないパーフェクトボディなサイボーグだからって……この集まりに招待しないとはどういう了見なのです?!」
「あ? いなかったテメエが悪いんだろうが」
「マルゲリータさんにはオリーブオイルをご用意させていだきました! もし他にお好きなオイルがありましたら……ぜひ言ってくださいね!」
「貴方達二人は私に喧嘩売るのが趣味なんですか?」

 確信犯ヤンキーと天然わんこの組み合わせって怖いなって、パンプキンはこの日改めて思った。
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