陽だまりの恋を追いかけて

「ニコラシカさん、貴方……投槍の技術は取得していないのですか?」
「う……っ! い、痛いところを突いてきますねマルゲリータさん……」

 バンカーバトルを終えた彼女に、マルゲリータは率直な質問を投げ掛ける。マルゲリータの問いに、ニコラシカは眉を下げ、苦笑を零した。
 一つ補足すると。マルゲリータは、ニコラシカのバンカーとしての実力を買っている。愛らしく、人畜無害そうな雰囲気から油断する人間が多いが、一度バンカーとしてのスイッチが入れば彼女は容赦がない。凛々しく槍を振るい、数多のバンカーを凪払って一掃する彼女の実力を、正式なBB7のメンバーとして迎え入れてもいいと考慮する程には認めているのだ。
 ただ一つ気になったのは、彼女は槍を振り回して戦うばかりで、ただの一度たりとも投槍の戦法を繰り出したことがなかった点だ。遠距離射撃メインのレモネードと共に戦う事が多い彼女なので、敢えて投槍の戦法を取らないだけなのかと思って今まで指摘はしなかったが……そうではなさそうだと。ニコラシカ一人で戦わせてみて思ったのだ。

「私、投槍がどうしても上手くできなくて……全然見当違いの方向に投げてしまうんですよね。狙いが上手く定められなくて……。投槍を取得できたら、戦法の幅が広がるのは分かってはいるんですけど……」
「ほう、やはりそうでしたか」

 気まずそうに答えるニコラシカ。彼女もやはり気にしていたのかと、マルゲリータは納得する。

「……試しに投げてみて頂けませんか? 何かしらアドバイスできるかもしれませんし」
「え?! で、でも……!本当にとんでもないことになっちゃうかもしれませんよ……?!」
「貴方の投槍のレベルの程度をこの目で確かめてみたいのですよ。さあ、早く」

 戸惑うニコラシカを他所に、マルゲリータは催促する。彼女に今後とも、BB7の利益貢献の為に動いてもらいたいマルゲリータにとって、ニコラシカに槍使いとしてレベルアップをしてもらいたい意図があった。レモネードがいなくても、一人で本領発揮できる戦闘スタイルになってくれれば……彼女の活動範囲も広がるというもの。

「……分かりました。その、何が起きても怒らないでいただけますと……助かります」
「?」

 ただ投げるだけだと言うのにその前置きはいったい……?と疑問符を浮かべつつ、マルゲリータはニコラシカの後ろに立つ。
 ニコラシカは気乗りしないような面持ちで、槍を構えた。ヒュッと風を切る音と共に、槍が彼女の手から勢いよく離れる。

「おや、フォームは悪くありませんじゃないですか……って、え?」

 ゴオオオ!!と何かが自分目掛けて飛んでくる気配。……そう。それは紛れもなく、ニコラシカが今さっき投げたばかりの……槍である。

「な、なんですとー?!」
「きゃー!? ま、マルゲリータさ〜ん!!避けてくださーい!!」

 急いで後ろへと跳躍する。先程まで自分がいたその場所に、ドォン!と……勢いよく槍が突き刺さる音が鳴り響いた。


***


「貴方ァ! いくら何でも投げるの下手とかそういう次元じゃないじゃないですか! 何をどうしたら真後ろにいた私に槍が飛んでくるんです?! 危うく私しぬところでしたよ?!」
「そ、それはごめんなさい……! でも……! 何が起きても怒らないでくださいって言ったじゃないですかぁ!」
「お黙りなさい!」
「そんなあ〜!!」

 マルゲリータにガミガミ叱られ、ニコラシカのアホ毛はしおしお……と萎れる。ぺこぺこと頭を下げ続けるニコラシカだが、マルゲリータの怒りは収まらないようで……おろおろとするしかなかった。

「さっきからてめえらうるせえんだよ!! 何騒いでやがる……!」
「レモネードさん……!」
「ちょっと!! レモネードくん貴方、ニコラシカさんの教育はどうなっているんですか?!」
「はあ? オレはいつからこいつの保護者になったんだよ」

 二人のやり取りを見兼ねて、レモネードは思わず割って入る。開口一番にマルゲリータから入れられたクレームに、レモネードは眉間に皺を寄せて突っ込む。
 そして、何があったのかを一部始終聞いて……一言。

「てめえがこいつに投げろっつったんだろうが。だったらいつまでもうだうだ説教こいてんじゃねーよ! くっだらねえ。そのままその足りねえ頭貫かれちまえばよかったんじゃねえの?」
「レモネードくん貴方ァ〜!!私に喧嘩売ってるんですかねえ?!」
「ケッ、買ってくれんのかよ? いーぜ、今日こそボコボコにしてやるよ……!」
「わー?! や、やめてくださーい!!」

 臨戦態勢に入ろうとするマルゲリータとレモネードに、ニコラシカは制止を掛ける。

「……大体。こいつが遠距離射撃できねえ分、オレがやるからいーんだよ。てめえの良いようにこいつを使おうとしてんじゃねえ。見え見えなんだよ」
「はわ……れ、レモネードさん……!」
「ちょっと!! 私をダシに良い雰囲気になるんじゃありませんよ!! 隙あらばいちゃつこうとするんじゃなーい!!」
「いちゃついてねえわ!! この節穴野郎が……!!」

 ぎゃーぎゃーと騒ぐ二人の間で、ニコラシカはわたわたおろおろするばかりで。他のBB7のメンバーが戻るまで、この騒動は続いた。

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