陽だまりの恋を追いかけて

 あたい、ニコラシカのことだーいすき!だって、あたいの初めての女友達になってくれて、いっぱい相手をしてくれる。あたいの好きなお花の話も、ヤキソバの話も、いっぱいいっぱい聞いてくれる。今まで、女の子があたいしかいなかったBB7に、ニコラシカが(正式なメンバーじゃないとはいえ)来てくれて、あたいは本当に嬉しかったんだぞい!

「ルッコラちゃーん!今日はですね、お花型のクッキーを焼いてみたんですよ! 一緒に食べましょう!」
「わーい! あたい、ニコラシカの作るお菓子だーいすき!お花の形なの、もしかしてあたいのため?」
「えへへ~、ルッコラちゃん、喜んでくれるかなって思って……お花の型抜きをしてみたんです!」
「嬉しいぞーい! ニコラシカだいすき~!!」

 今日はニコラシカがおやつを持ってきてくれた。可愛らしくラッピングされた袋を解くと、ふわりと甘い香りが漂う。ニコラシカが、ルッコラの為にと花の型抜きをして作ったクッキーがたくさん入っていて、ルッコラは思わずルンルンと踊る。
 そしてそのまま、クッキーを一つ手にとって。ぱくっと口の中へと放り投げる。さくさくとした食感と共に、バターの香りがふんわりと広がっていって……程よい甘さが、病みつきになるようだった。

「おっいしー!!何個でも食べられちゃうぞーい!」
「ほんとですか?! よかった~!ルッコラちゃんに喜んでもらえてうれしいです!」

 ルッコラは、ニコラシカが時々こうして自分の為にお菓子を作ってきてくれるのが嬉しくてたまらない。コップに注いでもらったミルクを飲んで、またクッキーを頬張るのを繰り返す。おやつを食べながら、ニコラシカとお喋りをするこの時間が、ルッコラの最近の楽しみなのだ。

「ねーねー!後でヤキソバにも分けていい?ニコラシカに作ってもらったって自慢するぞーい!」
「ふふ、もちろん良いですよ! ヤキソバさんのお口に合うか分かりませんが……」
「大丈夫だぞい! ヤキソバもニコラシカのお料理好きって言ってたし、どっかの誰かさんと違って甘いのなんて食べないなんて言わないぞーい!」
「あ? てめえどういう意味だコラ」
「げ……! れ、レモネード……!いつからいたんだぞい!」

 噂をすれば何とやらだ。まさかの御本人が登場してしまった。レモネードのドスの効いた低い声に、ルッコラの心臓はびくりと跳ねる。
 相変わらずの怖い顔だ。仮にもそれが、子どもである自分に向ける目つきなのだろうか?と、ルッコラは思う。レモネードが誰に対しても喧嘩腰なのはいつものことなので、口には出さないが。

「レモネードさん! おかえりなさい、バンカーバトルお疲れ様でした!」
「ケッ、てめえまた来てんのかよ。うざってえな」
「一日でも多く、レモネードさんにお会いしたいんですもん!」
「ほぼ毎日来といて何言ってやがる。寝言は寝てから言え」

 辛辣な言動。普通なら心が折れてもおかしくないようなレモネードの刺々しい言葉を受けても、ニコラシカはにこにこと笑って受け止めている。それどころか、レモネードと会話できるだけでも嬉しいようで、彼女のトレードマークであるアホ毛がぴょんぴょんと元気に揺れていた。ニコラシカは、レモネードと共にいられるだけで、本当に幸せなのだろうということが見ていて分かる。

(……おもしろくないぞーい)

 その様子を、ルッコラは口を尖らせながら見つめる。さっきまで、ニコラシカと楽しく話していたのは自分だったのになあ。
 ニコラシカが、自分達BB7と関わるようになったきっかけは、全てレモネードという男にある。レモネードがいなければ、自分はニコラシカと出逢うこともなかったし、友達にだってなれていなかった。それは、幼いルッコラでも分かっているのだ。
 ……けれど、面白くないと思う気持ちは、どうしたって切り離せない。ニコラシカがレモネードのことが大好きで、彼に会う為にBB7の元へと足を運んできてくれていることを分かっていても……今は。今だけは自分との時間に集中してほしかったのだ。

「ニコラシカ~! 今はあたいとお喋りする時間なんだぞーい! レモネードの相手は後にするぞい!!」
「わっ?! ご、ごめんなさいルッコラちゃん……!」
「ケッ、ガキはガキ同士ままごとでもしてろ。興味ねえ」

 ニコラシカの胸の中に抱き着いて、ようやくこちらに目を向けてもらえた。だが、相変わらずツンケンしたレモネードの態度にはムッとしてしまう。
 ……普段なら、レモネードに喧嘩を売ろうだなんて絶対に思わないけど。今は、ほんのちょっと、仕返しをしたくなった。

「なーにが興味ないだぞい! この間、ニコラシカが来なくてそわそわしてた奴に言われたくないぞーい!!」
「ッ?! ルッコラ……テメエ……!!」

 案の定。レモネードはギロ、と只でさえ鋭い目を更に釣り上げた。図星だ。余計なこと言いやがって……!という態度がありありと出ている。

「レモネードさん! ルッコラちゃん! 喧嘩しちゃだめです!!」
「えーん!ニコラシカに怒られちゃったぞ~い! ごめんね、もうしないぞい!」
「チッ……! マジで後で覚えとけよ……!」

 ニコラシカの腕の中で、あたいはわざとらしく泣いている仕草を取る。レモネードは機嫌悪そうにそれを見た後、言葉を吐き捨てて立ち去った。
 あたい、知ってるんだぞい。レモネードはあんなふうにニコラシカに冷たい態度を取ってるけど……本当に嫌だと思ってるわけじゃないってことを。

(ちゃっかりニコラシカが作ったクッキー食べてたし、本当に素直じゃないヤツ!)

 甘ったるいもんなんか好き好んで食わねえって言ってたくせに。去り際に一つ、クッキーを口の中に放っていたのをあたいは見てたんだから!
 きっと、そうやっていつか……ニコラシカのことを、レモネードは独占しちゃうんだろうなあ。
 その日までは。ニコラシカ、あたいと一緒に過ごすおやつの時間を……忘れないでね。
 約束だぞい!
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