陽だまりの恋を追いかけて

「レモネードさ〜ん!こんにちは!今日も私……ニコラシカは、レモネードさんに会いにやって参りました!」
「うぜえ」
「えへへ、今日もとってもかっこいいですね!」
「うるせえ」

 ここ最近。BB7が屯するピザの斜塔に、一人の少女が出入りするようになった。少女の名はニコラシカ。人懐こい子犬を思わせる、愛らしいこの少女が、自分達のような山賊バンカーと関わりを持っているだなんて世間の誰もが想像もしないだろうなとパンプキンは思う。
 ……否。もっと言うと、目の前で繰り広げられているこの光景こそが、パンプキンにとっては信じ難いもので、これは現実ではなく夢なんじゃないか?と思ってしまうほどだった。

「クスクス……俺達が見てるこの光景って現実なのかNA……」
「カカカ……」

 カ、としか言えないことを知りつつ、パンプキンは思わず隣にいたクスクスに問い掛けてしまった。そうでもしないと、目の前で見せつけられているじゃれ合いを、正気で受け止められる自信がなかったのだ。
 ……そう。このニコラシカという少女はなんと、レモネードのことが好きで、彼の傍にいたいというのだ。なんでも、レモネードは幼少期の彼女を救ってくれた恩人で、彼女は救われたその時からずっとレモネードを一途に想っていて……彼を追い掛ける為にバンカーになったという経緯を持つというのだ。
 ニコラシカの人柄からして、嘘を吐いているようには到底見えないし、真実なのだろうとは思う。しかし、普段の冷酷非道で、勝つ為ならば手段を選ばないレモネードの恐ろしさを知っているパンプキンからすれば……衝撃の連続すぎたのだ。我らがリーダーのマルゲリータも言っていたが、それは本当にレモネードだったのかと何度も確認したくなった。同じ名前の別人でしたオチならば納得できる。寧ろそうであってほしいと思ったくらいだ。

「レモネードさん、大好きです!十年間……貴方に恋い焦がれてきましたが……こうしてまたお会いできて、レモネードさんに対する想いはますます溢れてしまいそうです……!」
「うぜえって言ってるだろ!!つーかオレに気安く触るんじゃねえって何度言えば分かるんだテメエは!!ぶっ潰されてえのか?!」

 レモネードになんの躊躇いもなく抱きつき、熱い告白をするニコラシカの姿と、それを突っぱねるレモネードの光景は、最早BB7の間では日常茶飯事の光景と化している。初めのうちは「なんて怖いもの知らず……」とハラハラしたものだが、もう慣れたものだ。慣れって怖い。

「……ニコラシカちゃん、あんなに邪険に扱われてよくめげないよNA……」
「あのレモネード相手に凄いぞーい!あたいだったらぁ、あんなに怒鳴られたらすぐ逃げちゃうぞーい!」
「それくらい好きってことなんだろうな〜」

 パンプキンのぼやきをいつから聞いていたのか。ヤキソバとルッコラが相槌を打ってきた。この二人はBB7のメンバーの中ではレモネードと比較的仲が良い方で、そこそこ絡みもある。自分のようにレモネードに対する苦手意識はないのだろう。……おっかないと思っているのは、共通意識だろうが。

「レモネードさん、これからバンカーバトルに赴くのですよね? 私もご一緒させてください! レモネードさんのお役に立てるように……この槍を、存分に振るわせていただきます!」
「ケッ……勝手にすれば? 邪魔になったら容赦なくテメエからぶっ潰すから覚えとけ」
「はい! そうならないよう、上手く立ち回ってみせます!」

 すたすたと足早に歩くレモネードの後を付いていくニコラシカ。ちょこちょこと健気に彼の後ろを歩くその姿は、まるで親鳥の後について歩く雛のようだなあなんて思う。

「……以前までは、付いてくるなと言っていたようだったが。今はそうではないんだな」

 ぼそ、と。そんな一言を漏らしたのは……メンバーの中でも一番寡黙なニガリだった。彼の言葉に(そういえば、)と、一同は気付く。

「付いてくるなと言っても、彼女が聞かないから諦めたのでしょう。……本当に、物好きな人ですよ、ニコラシカさんは。正式なメンバーとして迎え入れたい程のメンタルの強さと実力ですが……彼女、見事なまでにレモネードくんしか見えていないですからねえ。惜しいものです」

 マルゲリータはレモネードとニコラシカの二人を見つめる。レモネードと並び立って戦いたいという想い一心で、鍛えてきたというニコラシカの槍術に、マルゲリータは一目を置いていたりするのだ。

「恋する乙女の力ってやつだぞーい!キャハ!今度、ニコラシカと一緒にガールズトークするのが楽しみだぞーい!」
「聞かされるの、多分大半が惚気話だろうけどな〜」

 わいわいと盛り上がるこの話題……もし、レモネードの耳に入ったら、全員に水のリボルバーを容赦なく放ってくるんだろうなと、パンプキンは思った。
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